藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)
1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
現場取材20年の記者が憂う日本外交の劣化
もし夏の参院選を乗りきれば、在任期間が歴代最長に届こうかという安倍晋三首相。通常国会が終わって来たる参院選に向け、政権の仕事ぶりが問われる今、首相に返り咲いてから6年半の「安倍外交」を総括しておきたい。
その総括は、「採点不能、よくて赤点」という厳しいベースから考えざるをえない。なぜか? 20年間、取材現場で日本外交を見てきた立場から述べる。
評価のベースが「採点不能、よくて赤点」である理由は、安倍政権が官邸主導の名のもとに、日本外交に関する国民への説明責任を著しく劣化させたからだ。
自身の取材不足を棚に上げて「説明せよ」と叫ぶつもりはない。ただ、安倍政権は「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」や「戦後外交の総決算」など、なにかと外交をアピールしながら、歴代政権と比べると隠し事が多すぎる。ほんとうに国益にかなう判断や交渉がなされたのか、「経緯」をめぐる闇が広すぎるのだ。
特にそれが目立つのが、首相を交えた官邸での会議、そして首脳会談だ。日本の外交・安全保障の司令塔というふれこみで2013年にでき、首相が議長を務める国家安全保障会議(NSC)や、安倍首相が米国のトランプ大統領やロシアのプーチン大統領との会談で多用する「テタテ」(一対一)での「突っ込んだ議論」の中身は、ほとんど明かされない。
「特定秘密保護法ができたから仕方ないよ」と思われるかもしれない。安倍政権の採決強行で生まれたこの法律は確かに14年から施行されているが、各行政機関が毎年指定する特定秘密のうち、外交関連は実はそれほど多くない。
18年に指定された特定秘密に関する政府の報告書によると、NSCでは同年中の会議の「結論に関する情報」、外務省では同年中に「外国の政府等から国際情報統括官組織に提供された情報」のみだ。
にも関わらず、発足から150回以上を数えるNSCの四大臣会合(首相、外相、防衛相、官房長官。今は副総理も参加)については、菅義偉官房長官が記者会見で議題を述べるだけ。テタテのやり取りも首脳間の信頼関係を崩さないようにと極秘扱いだ。
その結果、安倍政権下では、外交に関して首相や官房長官が公言したこと以外について、官邸や外務省の関係者の口が極めて重くなった。それが秘密かどうか以前に、「報道されると、誰が言ったんだという官邸の犯人捜しが始まる」(外務省幹部)と萎縮している。
日本外交の「経過」についての説明責任を、安倍政権はかくも劣化させた。それが、評価のベースを「採点不能、よくて赤点」とするゆえんだ。ただし、安倍外交が「経過」をそこまでして伏せながらも、久々の長期政権が享受する政治基盤を生かすことで「成果」を得ているのなら、平均点に近づくかもしれない。
次にそうした観点から、主要各国との関係をざっと顧みたい。
(安倍外交の「成果」について安倍政権の人たちと話すと、首脳会談が頻繁な主要国との外交で「首相が毎年のように代わっていた以前と違い、自己紹介から入らなくていいので議論が深まる」とか、6月末に大阪で開かれる「G20」サミットのような国際会議で、「首相の存在感が高まって議論をリードできる」などと語られる。だが、それは長期政権のメリットとして一般的に言えることであり、安倍外交を問う本稿の趣旨とずれるので評価対象としない)