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安倍外交は採点不能、よくて赤点 参院選前に総括

現場取材20年の記者が憂う日本外交の劣化

藤田直央 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

最大の懸案、日中関係

 台頭する中国への対応は日本外交の最大の懸案だ。

 日中関係は、安倍政権の直前の民主党政権による2012年の尖閣諸島国有化を機に、1972年の国交正常化以降で最悪に陥ったが、安倍政権になって2014年に関係改善に合意し、首脳が往来するところまで立て直した。中国が反発する首相の靖国神社参拝も、安倍首相はこだわりを抑え、13年を最後に控えている。そこは評価できる。

 ただし、日中関係について安倍政権の6年半で明らかになったのは、そもそも時の首相が独自色を発揮できるほど生易しいものではなくなっているということだ。背景には、今後も続くであろう中国の台頭と、米国の警戒からくる米中対立がある。

拡大G20サミットで来日した習国家主席と、日中首脳会談を前に握手する安倍首相=6月27日夜、大阪市北区。代表撮影

 日中関係が改善したのは、トランプ政権との「貿易戦争」を機に経済面でリスクヘッジを迫られた習近平政権と、安倍政権の利害の重なりが広がったことよる面が大きい。一方で、安全保障面では尖閣周辺海域でのにらみ合いが続いており、安倍政権は中国の海洋進出への対応という点で利害が重なる米国との同盟強化で対応してきた。

 日中関係は安倍外交を云々(うんぬん)する前に、日本が米中対立の行方に目を凝らしながら、そこでどう生き抜くかという国家の行方がかかった危機管理の問題になっている。中国にしても、日本とは歴史認識や尖閣の問題を抱え、日米同盟もあって易々と関係強化には踏み込めない。

 安倍政権は、日中関係をそうした綱渡りでしのいできた。首脳会談もまだ頻繁とはいかないだけに、安倍外交のアラも見えにくかったと言える。

安倍・トランプの「やってる感」

 中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイルへの対処に日米同盟が欠かせないにもかかわらず、「米国はもう世界の警察官はできない」と公言するトランプ大統領が、2017年に登場した。そんな厄介な状況の日米関係において、安倍外交は目立った。

 大統領選でのトランプ氏躍進を外務省は読み切れず、米国の新政権との人脈づくりは後手に回ったが、安倍首相が当選間もないトランプ氏をトランプタワーに訪ねたり、ゴルフをくり返したりして首脳間で絆を深めた。世界がトランプ氏に振り回されるなか、日本外交の財産といえる。

拡大5月末に来日したトランプ大統領と千葉県でゴルフをする安倍首相。「自撮り」したという=首相官邸のツイッターより
 もちろん手放しでは評価できない。今の日米関係がその安倍・トランプ関係に頼りすぎなのに、二人きりのテタテで「やってる感」は伝わるが何を話しているのかわからないという、冒頭に述べた説明責任の劣化にからむ恐ろしい状況があるからだ。

 最近のテタテについて言えば、安倍首相は日本人拉致問題の訴えに力を入れていることはわかる。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との会談に踏み切ったトランプ氏に、拉致問題解決を望む自分の考えを伝えてほしいというわけだ。二度目の今年の米朝首脳会談の後、安倍首相は「トランプ大統領から金委員長に伝えていただいた」と喜びをあらわにした。

 ただ、不動産王・トランプ氏の信条はあくまでディール(取引)だ。テタテで安倍首相に何を頼んでいるのだろうか。

 シンゾーはアメリカの武器を買うと言ってくれた、という趣旨の発言をトランプ氏はよくする。もともと日本政府で決めていた話について「大統領に美しい誤解をしていただいている」(小野寺五典・前防衛相)という見方もあるが、5日末の訪日でもトランプ氏から踏み込んだ発言があった。横須賀に停泊中の海上自衛隊護衛艦「かが」を安倍首相と訪れた際のことだ。

 自衛隊最大の船である「いずも型」護衛艦「かが」は、空母に改修される可能性があるが、政府はまだ決めていない。空母に積まれる戦闘機の機種も表向きは未定だが、トランプ氏は「かが」艦内での訓示で「この船は近く改修され、最新鋭の(米国製)戦闘機F35を運ぶ事になるだろう」と語ったのだ。

拡大5月末に来日し、海上自衛隊の護衛艦「かが」を訪れて自衛隊と米軍の隊員に訓示するトランプ大統領。隣には安倍首相=神奈川県横須賀市。代表撮影
 日米間で焦点の貿易交渉でも、首脳間のやり取りには危うさがつきまとう。安倍首相が昨年9月の首脳会談後の記者会見で、米国が望む包括的な自由貿易協定(FTA)ではなく物品に関する協定「TAG」の交渉開始に合意したと言って、後で米国駐日大使に否定されたり、トランプ氏が5月末の訪日の際に「7月の選挙後に待つ」と参院選を控える安倍首相に配慮するかのようなツイートをしたり……

 かと思えばトランプ氏は6月末、訪日を前に米メディアのインタビューで「我々が攻撃されても日本は我々を助ける必要はない。できるのは攻撃をテレビで見ることだ」と主張。大統領当選前から変わらぬ日米安保体制への不満をあらわにした。安倍政権が日米同盟が揺るがないようにと踏み切った集団的自衛権の限定行使容認や、米軍普天間飛行場の沖縄県内移設のための工事開始など、まったくお構いなしだ。

 「首脳会談は12回、電話協議は30回」と外務省も安倍・トランプ関係の濃密さを強調するが、外務省幹部が入れないテタテで2人は一体何を話しているのか、誤解が生まれていないか、危なかっしいこと甚だしい。

 もしひそかなディールがあるとすれば、国益に沿っているかどうかの検証ができず、2人が政権を去った後に引き継がれる保証もない。テタテ頼りの安倍外交が抱えるリスクは大きい。

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筆者

藤田直央

藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)

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