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安倍外交は採点不能、よくて赤点 参院選前に総括

現場取材20年の記者が憂う日本外交の劣化

藤田直央 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

北方領土で日本の立場不明に

 テタテ頼りの安倍外交といえば、日ロ関係はその最たるものだ。安倍首相は昨年5月の国会答弁で、プーチン大統領とテタテを重ねていることについて、こう語っている。

 「平和条約交渉の中身は、最後の時点に至るまで外に出すわけにはいかない。テタテ会談の時には、基本的には平和条約交渉の話しかしていません。ただ、そこでどういう対話がなされたかを私が紹介した瞬間に、もう次の首脳会談では話ができなくなってしまいます」

 日ロ平和条約交渉は北方領土交渉と表裏一体だけに、これも危うい話だ。

拡大G20サミットで来日したプーチン大統領と、日ロ首脳会談を前に握手する安倍首相=6月29日夕、大阪市中央区。代表撮影
 首脳間で信頼関係を深めることは大切だ。しかし、領土問題のように国益がぶつかり合うテーマで、テタテで「突っ込んだ議論」を重ねると、互いに外に言えないことがどんどん増える。秘密を共有するという意味で、信頼関係というよりも連帯感が生まれて議論は進むかもしれないが、それが果たして国益に沿っているのか、後継者に伝わるのか。日米関係で述べたのと同様である。

 安倍政権は日本外交において「経過」の説明責任を劣化させた。それを補って余りある「成果」を得ているのか。その観点から私が最も厳しい目を向けるのが、この日ロ関係だ。

 安倍首相や河野太郎外相は、平和条約交渉について「政府の立場は変わらない」とくり返す。だが、ロシアの前身であるソ連と国交を回復した1956年の共同宣言以来、戦争で奪われた北方領土の返還を目指して日本外交が積み重ねてきた「政府の立場」は、安倍政権でわけがわからなくなってしまった。

 それは、外務省が毎年発行する「外交青書」2019年版ではっきりした。終戦時にソ連が占拠し日本が返還を求めてきた北方四島について、1957年に出た最初の青書は「固有の領土」とし、2009年からは毎年「固有の領土」や「日本に帰属」と書いてきた。19年版でそれらの言葉が消えてしまったのだ。

 しかも、日ロ交渉の到達点として1993年から記され続けてきた「東京宣言」への言及もなくなった。四島がどちらに属するかを棚上げせずに平和条約を締結するとした同年の首脳間合意であり、安倍内閣で2013年に閣議決定した日本初の国家安全保障戦略にも、その内容をあえて明記していたのに、だ。

四島へのこだわり捨てた?

 外交青書で唯一言及された過去の合意は、平和条約締結後の二島引き渡しを記した1956年の日ソ共同宣言だ。もし、こうした記述そのままが日本政府の基本方針になったのなら、日ロ間の共通認識は一気に63年前まで後退したうえ、日本が四島へのこだわりすら捨ててしまったことになる。

拡大5月末の日ロ外相会談後に共同記者発表に臨む河野外相とラブロフ外相=東京・麻布台の飯倉公館。代表撮影
 安倍首相は首脳間のテタテの中身を語らず、河野外相は「国民が日本外交への理解を深める一助に」と自身が巻頭言でうたう今年の外交青書で説明を一変させておきながら、「政府の立場は変わらない」と強弁する。そして、2人とも56年宣言を強調するようになっている。

 安倍政権の対ロ外交はなぜ、こんなに風通しが悪いのか。たとえば20数年前、同様に平和条約交渉決着を目指した橋本龍太郎首相は「ユーラシア外交」を唱え、領土問題での妥協を包み込めるような日ロ関係発展に向けたビジョンを国民に示した。

 「当時とは状況が違う」と首相周辺は語る。「いまは膨脹する中国にどう対応するかだ。日米豪印が連携するインド太平洋戦略で南を、日ロ関係の発展で北を抑える。でも米ロ関係が悪い中で、日ロ関係のビジョンまで打ち出すのは、いかにも間が悪い」

 日本の国益にとっては、台頭する中国への対応こそが喫緊の課題であり、そのためにロシアとはとにかく北方領土問題で妥協して早く関係を安定させる。四島へのこだわりを断つ政治判断をするには、久々の長期政権である安倍政権の登場というチャンスを逃してはならない――というわけだ。

 戦略としてはわかるが、そんなことは安倍政権が作った国家安全保障戦略に一言も書いていない。ロシアという言葉が出てくるのはたった1カ所だ。首相自身が交渉にのめり込み、これまでの方針との整合性をもって国民に語る言葉を失っていく。そんな自縄自縛に安倍外交は陥っている。

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筆者

藤田直央

藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)

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