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香港市民はなぜ、大規模デモをするのか?(上)

雨傘運動から5年。香港の市民が再び立ち上がったやむにやまれぬ理由

五野井郁夫 高千穂大学経営学部教授(政治学・国際関係論)

「逃亡犯条例」改正案のどこが問題か

 今回の改正案の発端は、昨年2月に香港人の男が台湾で殺人事件を起こした後に香港へ逃亡した事件である。この事件では台湾は逃亡犯引き渡しの対象外だったため、台湾当局からの訴追を免れたのだ。

 これを奇貨として香港政府は今年の2月に「逃亡犯条例」改正案を提出した。そこには改正案の引き渡し先には台湾のみならず中国本土も含まれていた。現行の逃亡犯条例では逃亡犯を中国政府に直接引き渡すことはできないが、改正案が成立すれば。中国本土への移送が可能になるのだ。

 なぜこれが問題かといえば、中国政府に批判的な香港市民が中国の法律に違反したとみなされた容疑者はもちろんのこと、中国政府からマークされた一般人も、容疑の捏造(ねつぞう)や微罪で拘束され、中国本土へ引き渡される恐れがあるためだ。

 実際、2015年には習近平国家主席のスキャンダル本など中国政府に批判的な書籍を出版販売していた銅鑼湾(コーズウェイベイ)書店の経営者らが突然、失踪。のちに中国当局に拘束されていたことが明らかになっている。(「現地ルポ 香港返還20周年と中国の民主化運動」)今回の改正案は銅鑼湾書店のような事件を合法化し追認するものとして、香港の人々に受け取られたのである。

 さらに、改正案は香港市民のみならず香港を訪れる外国人も対象としている。一般の外国人ビジネスマンや観光客にも銅鑼湾事件と同様のことが起きうるのである。

 人権が守られないとなると、香港は、これまでのように世界の経済・金融センターとしての役割を担えなくなってしまう。今回の改正案は、1997年にイギリスから中国に返還されて以後も一国二制度のもと保たれてきた「高度な自治」と司法の独立を、根底から揺るがしかねないものとなっているのだ。

 香港の国会にあたる立法会は毎年6月30日で会期終了となるため、6月20日に法案採決をすべく逆算して、当初6月12日に本会議で審議入りすることを決めた。そこで、香港の人々はまず6月9日に巨大なデモを行い、審議入りをする前に反対の民意を国内外に示して阻止しようと試みたのである。

拡大立法会の壁に書かれた反送中(デモ中)と我が香港を守れ、アイラブ香港の落書き(撮影:五野井郁夫)


筆者

五野井郁夫

五野井郁夫(ごのい・いくお) 高千穂大学経営学部教授(政治学・国際関係論)

高千穂大学経営学部教授/国際基督教大学社会科学研究所研究員。1979年、東京都生まれ。上智大学法学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程修了(学術博士)。日本学術振興会特別研究員、立教大学法学部助教を経て現職。専門は政治学・国際関係論。おもに民主主義論を研究。著書に『「デモ」とは何か――変貌する直接民主主義』(NHKブックス)、共編著に『リベラル再起動のために』(毎日新聞出版)、共訳書にウィリアム・コノリー『プルーラリズム』(岩波書店)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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