105機の追加購入に1兆2000億円。トランプとロッキードへの遠慮が見え隠れ
2019年06月28日
安倍首相は憲法9条を変えたくてうずうずしている。うずうずしているどころかその願望を堂々と公言さえしている。このこと自体、憲法99条の憲法尊重擁護義務違反に当たる可能性が大きいが、安倍首相の憲法軽視の姿勢は今に始まったことではないのでさしたる驚きはない。
首相の憲法違反の言動、政治的行動に格別の驚きを感じないというのは極めて異常な政治状態であることを示しているわけだが、そんな状態の中でもやはり驚くことはある。
航空自衛隊三沢基地(青森県)のステルス戦闘機F35が青森県沖の太平洋上に墜落した。約2か月という短期間の捜索、原因究明の結果、死亡したベテラン・パイロットが空間識失調という平衡感覚を失う状態に陥り、墜落の原因をつくったという推定の結論を出して、捜索、原因究明の努力を放棄した。
安倍首相は憲法9条を変える理由として、自衛官を父親に持つ子どものことを考え、自衛隊の存在を憲法に堂々と書き込む必要があると何度も繰り返してきた。しかし、そこまで自衛官のことを思うのならば、わずか2か月で捜索打ち切り、原因究明中止というのはあまりに諦めが早いのではないか。
安倍首相の言動と実際の行政行動とのギャップに驚く。
F35は安倍首相が1兆2000億円という巨額支出をして105機の追加購入を決めた次期主力戦闘機だ。
ベテラン・パイロットの墜落事故についてはもっと時間をかけて慎重に原因を追究すべきだろう。米国ロッキード・マーチン社が開発製造した機体には何も原因がなく、推定だけで自衛隊のパイロットに原因があったと結論を出すのはあまりに非論理的だ。まるでトランプ大統領やロッキード社に遠慮しているようではないか。
事故はどのようにして起こったのか。航空自衛隊の発表に基づいて再現してみよう。(「航跡概要図」参照)
発表によれば、4月9日午後6時59分ころ、三沢基地所属のF35A戦闘機の4機編隊が同基地を離陸。1番機に搭乗していた細見彰里(ほそみ・あきのり)3等空佐(41)は同7時25分ころ、戦闘訓練の対抗機2機を訓練の上で撃墜したことを地上の管制機関に報告した。
その1分後、近づいていた米軍機との距離を取るため管制機関から降下の指示を受け、細見3等空佐は「はい。了解」と送信し、左降下旋回を始めた。
この時、近づいてきた米軍機の高度は約1万1300メートル。細見3等空佐のF35Aは約9600メートルだったが、細見3等空佐は約4900メートルまで約20秒で降下、時速約900キロ以上という急降下だった。
さらに午後7時26分15秒前後、管制機関は左旋回を指示、細見3等空佐は左旋回した後「はい、ノック・イット・オフ(訓練中止)」という落ち着いた送信の声を最後に約4700メートル下の海面に時速約1100キロ以上の速さで激突したとみられる。
航空自衛隊の発表では、緊急脱出の形跡は確認されず、機体は激しく損壊し、部品や破片などが海底に散乱していたという。
では、事故原因についてはどうか。航空自衛隊はまず、酸欠やG―LOC(重力に起因する意識喪失)、機体の不具合などの可能性は極めて低いとしており、その上で次のように結論づけている。
有効な回復操作が可能な最低高度に至っても回復操作が見られないことから、操縦者が「空間識失調」(平衡感覚を失った状態)に陥っており、そのことを本人が意識していなかった可能性が高いと推定
しかし、この「推定」は本当に合理的なのだろうか。
航跡概要図を見てまず驚くのは、細見3等空佐が約9600メートルの高さから約4900メートルの高さまで時速約900キロの速さで左旋回しながら降下し、さらに左旋回しながらスピードを緩めるどころか速めて海面に激突していることだ。この間、本当に細見3等空佐は「空間識失調」の錯覚の中で操縦桿を握っていたのだろうか。
「空間識失調」とは何か。バーティゴともいい、地上が下にあるのか上にあるのか、あるいは機体が上昇しているのか下降しているのかさえわからなくなる状態のことで、夜間飛行や濃霧の中などで地平線や水平線が見えない飛行中に陥りやすいという。
ここで合理的な疑問は、細見3等空佐は総飛行時間3200時間、F35での飛行時間は60時間という経験を持つかなり熟練したパイロットであるという点だ。これほどのベテラン・パイロットが空間識失調に陥り、海面に激突するまで気がつかなかったということがありえるだろうか。
疑問の第2点は、空間識失調は周りが見えない夜間などに起こりやすいとはいえ、F35のパイロットは夜間でも昼間のように見えるゴーグルがついたヘルメットを着用している点だ。F35自体1機100億円を超え、維持費を含めると300億円は超えると言われるが、ヘルメットひとつ取っても4400万円という代物だ。
F35は、このヘルメット・ゴーグルと風防ガラスのセットで、明るすぎる時は暗めに、夜間は昼間のように外が見える「総合視認システム」を採用している。つまり、どんな強烈な太陽光線の下にいても、真っ暗な夜中にいても、操縦桿を握ってさえいれば快適なジェットの空が楽しめるシステムになっているのだ。
したがって細見3等空佐も最後まで水平線をにらんでいたことは確実だろう。横に見える水平線の状態をにらみながら、飛行時間3200時間のベテラン・パイロットが水平飛行の錯覚の中に居続けたということが果たしてありえるだろうか。それともこの「総合視認システム」が壊れていたとでも言うのだろうか。
実は、墜落原因については、パイロットの空間識失調などではなく、機体の方に問題があったのではないだろうか、とする見方が根強い。
2018年6月、米国会計検査院(GAO)はF35に966件もの未解決の欠陥があり、そのうち111件が「安全性や他の重要な性能を危険にさらしうる欠陥」と位置づけている。
これだけ多くの欠陥がGAOによって指摘されていることも驚きだが、さらにこの6月12日、米国のオンライン軍事専門誌ディフェンス・ニュースが内部文書を入手し、「13の最も重大な欠陥」があると報じた。超音速飛行は短時間だけ可能、制限時間を超えるとステルス機能を失い、機体の損傷などもあることなどが指摘されているが、その6番目に掲げられた項目は今回の自衛隊事故を考える上で座視できない欠陥だろう。直訳するとこうなる。
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