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「日韓の亀裂の迷走」を和田春樹さんと考える

慰安婦問題解決をめぐるリベラル分裂

市川速水 朝日新聞編集委員

拡大1992年以来、毎週ソウルの日本大使館前に集まり日本政府の対応に抗議する元慰安婦や支援者たち。この「水曜デモ」は今も続いている=2006年3月、筆者撮影

「失敗」に終わったアジア女性基金

 もう一つ、和田さんらを苦しめたのは、基金が始動して最大の目的である韓国人元慰安婦に償い金を支給する段になって、償い金を受け取る少数の元慰安婦と拒否する多数派の慰安婦に分かれたことだった。

 さらに金大中政権は、日本政府に慰安婦問題で要求を出すことをしない代わりに、アジア女性基金の事業を受け取らない元慰安婦に約360万円相当の一時金給付を行うと決定した。

 韓国内では、日本の基金を受け取った人も、受け取った金を返却するとして運動団体に寄託すれば、韓国政府の一時金を受け取れるという主張がなされ、圧力が強められた。韓国政府は「アジア女性基金を受け取らない」と誓約書を書かせたうえで一時金を支給した。

 基金の活動と韓国政府の一時金支給が、韓国の内部で、苦しいカネとカネの争い、元慰安婦同士の分裂を招く結果となった。

 和田さんは、この時の韓国の(特に市民団体の)姿勢と日本の選択に大きな隔たりがあったと振り返る。

和田「アジア女性基金は挺対協と対立していましたが、仲介してくださった教会の先生方のお力で、1995年にソウルと東京で二回秘密裡に懇談会をもっとことがあります。韓国側は、慰安婦問題は犯罪にあたると法的解決、法的責任論、法的賠償、責任者処罰を要求しました。私たちは、道義的責任論、「償い」の事業、「償い=atonement=贖罪」の事業を主張しました。韓国側の主張は、さながら戦勝国が敗戦国に要求する、一種の戦争犯罪裁判でなされる主張のようでした。結局わたしたちは折り合えることができませんでした」

 アジア女性基金の事業は最終的に、「償い金」が総額5億7000万円、医療・福祉支援事業が5億1000万円。これが被害者個人に向けてなされ、韓国、台湾、フィリピン、オランダの364人が受け取った。うち韓国は60人、台湾は13人、フィリピンは212人が償い金と医療・福祉支援を受け取り、オランダ79人は医療福祉支援のみをうけとった。韓国の60人は登録した慰安婦被害者の3分の1以下だった。

 韓国、台湾では、被害当事者の大多数が基金の事業の受け取りを拒否したため、和田さん自身の総括としても、アジア女性基金は「失敗」だったと言わざるを得ない。

 和田「最初に募金のよびかけのための新聞広告を載せるために政府の予算1億3000万円を使ってスタートした基金です。被害者がアジアのどこかにいるかぎり、その人々のところに首相の謝罪と償い金をとどける活動をやるべきだったのです。しかし、インドネシアでも、中国でも、北朝鮮でも、マレーシアでも、北カリマンタンでも、まったく事業はできないまま、基金は活動停止に追い込まれてしまいました」

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筆者

市川速水

市川速水(いちかわ・はやみ) 朝日新聞編集委員

1960年生まれ。一橋大学法学部卒。東京社会部、香港返還(1997年)時の香港特派員。ソウル支局長時代は北朝鮮の核疑惑をめぐる6者協議を取材。中国総局長(北京)時代には習近平国家主席(当時副主席)と会見。2016年9月から現職。著書に「皇室報道」、対談集「朝日vs.産経 ソウル発」(いずれも朝日新聞社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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