メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

無料

「挫折」から「一強」へ。安倍晋三政権の権謀術数

平成政治の興亡 私が見た権力者たち(19)

星浩 政治ジャーナリスト

集団的自衛権の行使容認を閣議決定

 年が明けて14年。安倍首相は安全保障法制のとりまとめを加速させた。有識者による「安保法制懇談会」(座長・柳井俊二元駐米大使)に、集団的自衛権の行使が可能になる枠組みを検討するよう求めた。

 集団的自衛権は、同盟関係などにある他国が攻撃された時に、自国が攻撃されたと見なして反撃できる権利のことだ。日本政府はこれまで「集団的自衛権は保有しているが、憲法上、行使できない」という立場をとっていた。5月15日、安保法制懇は報告書を提出。①集団的自衛権を全面的に容認するよう憲法解釈を変更する②次善の策として、日本の安全保障に重大な影響を及ぼす可能性がある時、限定的に集団的自衛権を行使することは許される――二案を提示する。安倍首相は、②の限定容認論を受け入れた。連立与党の公明党に配慮した結果だった。

 7月1日には臨時閣議が開かれ、集団的自衛権の一部を容認する政府見解が閣議決定された。「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」に限って、集団的自衛権の行使が許されるとした。戦後憲法の下で、海外での武力行使を厳格に禁じてきた日本の外交・安全保障政策にとって、大きな転換である。

 この見解に基づく法案作りが始まったが、連立与党をくむ公明党が、支持母体である創価学会に集団的自衛権行使に慎重論が根強いことから、2015年春の統一地方選まで法案の国会提出を控えるよう要請。法案の国会提出は先送りされた。

 安倍首相は9月3日、自民党役員人事と内閣改造を行った。党幹事長を石破茂氏から谷垣禎一氏に代えた。安保法制の本格審議を控え、ハト派の谷垣氏を党の要に起用することで政権の「幅広さ」をアピールする狙いがあった。

拡大集団的自衛権一部容認の閣議決定を受け、会見する安倍晋三首相=2014年7月1日、首相官邸

消費増税延期で衆院解散・総選挙へ

 年末の予算編成に向けて安倍首相は、一つの決断を迫られていた。民主党政権下で自民、公明両党も賛成した3党合意を受けた法律にそって、14年4月に消費税率を5%から8%に引き上げたのに続いて、15年10月にはさらに8%から10%に引き上げることになっていた。予算編成でその増税分を盛り込むかどうかを決めなければならない。

 5%から8%に引き上げられた際には、消費が大きく落ち込み、景気が減速した。消費増税で再び景気が悪化すれば、政権へのダメージも大きく、念願の安保法制にも影響が出てくる。安倍首相は消費増税の延期を決断。11月18日に記者会見し、増税を17年4月まで1年半延期すると表明。そのうえで、「大きな政策変更であり、国民の信を問いたい」として、衆院の解散・総選挙に打って出たのである。

拡大衆院解散後、麻生太郎財務相と握手する安倍晋三首相=2014年11月21日
 そもそも安倍首相には、消費増税に対して「三つの不信」があった。ひとつは、3党合意ができた2012年当時、自民党は野党で、安倍氏は谷垣総裁ら執行部とは距離があったことからくる「不信」である。

 ふたつは、増税を進めている財務省に対する「不信」。安倍氏が所属してきた自民党清和会は、大蔵省(現・財務省)出身の福田赳夫元首相が会長を務めたこともあるが、大蔵省・財務省とは比較的、縁が薄い。田中角栄元首相の系譜である田中・竹下派や大平正芳、宮沢喜一両元首相らの宏池会が、大蔵省・財務省と近い関係にあった。「安倍氏は、財務省は政権をつぶしてでも増税や財政再建を進めたがると考えている」と、安倍首相側近は証言する。歴代の首相官邸では多くの場合、大蔵省・財務省出身の首相秘書官らが国会や党との日程調整を担当するが、安倍官邸では今井秘書官や経産省出身の秘書官たちが政治日程づくりの中枢を握っていた。

 それに、消費増税という政策自体への「不信」も加わる。安倍首相は「増税しても景気が落ち込み、税収が減れば元も子もない」と語ることが多い。「景気が良くなれば、税収は増えるので消費税率を上げる必要はない」という「上げ潮理論」の影響を受けている。しかし、実際にはアベノミクスによる景気上昇も限定的で、大幅な税収増は見込めず、財政再建は足踏みしている。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

星浩

星浩(ほし・ひろし) 政治ジャーナリスト

1955年福島県生まれ。79年、東京大学卒、朝日新聞入社。85年から政治部。首相官邸、外務省、自民党などを担当。ワシントン特派員、政治部デスク、オピニオン編集長などを経て特別編集委員。 2004-06年、東京大学大学院特任教授。16年に朝日新聞を退社、TBS系「NEWS23」キャスターを務める。主な著書に『自民党と戦後』『テレビ政治』『官房長官 側近の政治学』など。

星浩の記事

もっと見る