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「挫折」から「一強」へ。安倍晋三政権の権謀術数

平成政治の興亡 私が見た権力者たち(19)

星浩 政治ジャーナリスト

反対デモのなか安保法制が成立

 安倍首相の「不意打ち解散」による総選挙は12月2日公示、14日投票で行われた。自民党は「政治の安定」を掲げて攻勢を強め、野党の民主党は候補者擁立もままならず、苦戦を強いられた。結果は自民党が4議席減らして291議席、公明党は4議席増やして35議席。自公の与党勢力は選挙前と同じ圧倒多数を維持した。民主党は11議席増やしたものの、73議席にとどまった。海江田代表は落選。後継の代表には岡田克也氏が返り咲いた。日本維新の会は41議席。与野党の構図は変わらなかった。

 年が明けて15年。通常国会で当初予算が成立し、統一地方選も終わったのを受けて、安倍政権はいよいよ安保法制の成立に向けて動き出した。5月15日、集団的自衛権の行使容認を柱とした安保関連法案を閣議決定して国会に提出。安倍首相と岡田代表との論争などが続いた。安倍首相は、朝鮮半島有事のケースなどをあげて、在留邦人を日本に運ぶ米軍が攻撃された場合、日本への攻撃と見なして自衛隊が反撃するといった説明を繰り返したが、野党側は納得しなかった。

 そこへ、思いも寄らぬ出来事が起こる。6月4日、衆院憲法審査会に自民党推薦の参考人として出席していた長谷部恭男・早稲田大教授が、集団的自衛権の行使を認める安保関連法案は「憲法違反」と断じたのだ。

 憲法学の権威である長谷部氏の発言で、法案に反対していた野党は勢いづき、自民党内には困惑が広がった。国会議事堂の周辺では、安保法案反対のデモが続いたが、政府・与党は7月15日、衆院特別委員会で採決を強行。参院でも与野党の対立が続いたまま、9月19日未明の参院本会議で法案は可決、成立した。

拡大安保法制関連法案の廃案を求めて国会前で声を上げる人たち=2015年9月15日、東京・永田町
拡大参院本会議で安保関連法が可決・成立し、拍手する与党議員(中央付近)=2015年9月19日

オバマ米大統領の広島訪問が実現

 任期満了に伴う9月の自民党総裁選を無投票で乗り切った安倍首相は、9月24日の記者会見で、政権の新たな看板として「1億総活躍社会」を掲げ、「日本社会の構造的課題である少子高齢化に真正面から挑戦したい」と述べた。具体的には「国内総生産(GDP)600兆円」「介護離職ゼロ」などを打ち出した。安保法制の混乱から経済再生に局面転換しようという狙いが込められていた。だが、アベノミクスの3本の矢との整合性や、社会保障充実のための財源問題などが不明確で、「1億総活躍」のインパクトは弱かった。

 明けて16年。5月には安倍首相が議長役を務める主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)が予定されていた。安倍首相は、夏の参院選で勝利し、衆院に続いて参院でも憲法改正に前向きな勢力を3分の2以上確保したいと狙っていた。

 5月26日のサミット初日。出席していた7人の首脳にある文書が配られた。鉄鉱石など世界の資源価格の下落率や新興国の経済指標の不調ぶりは、リーマン・ショック級だと書かれていた。ドイツのメルケル首相や英国のキャメロン首相らは首をかしげた。

 この文書は安倍首相の今井秘書官(政務)が、出身の経産省に指示して作成させた。狙いは17年4月に予定されていた消費税率の8%から10%への引き上げを延期することだった。安倍首相は「今井ペーパー」の狙い通り、消費税率引き上げ時期を2年半延期して19年10月にすると表明。参院選で民意を問うと述べた。

 サミットの後には、歴史的なオバマ米大統領の広島訪問が実現した。オバマ氏は被爆者らと面会したほか、平和公園で演説し、核なき世界をめざす考えを強調した。

拡大平和記念公園で演説するオバマ米大統領(右)と安倍首相=2016年5月27日、広島市

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筆者

星浩

星浩(ほし・ひろし) 政治ジャーナリスト

1955年福島県生まれ。79年、東京大学卒、朝日新聞入社。85年から政治部。首相官邸、外務省、自民党などを担当。ワシントン特派員、政治部デスク、オピニオン編集長などを経て特別編集委員。 2004-06年、東京大学大学院特任教授。16年に朝日新聞を退社、TBS系「NEWS23」キャスターを務める。主な著書に『自民党と戦後』『テレビ政治』『官房長官 側近の政治学』など。

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