細川さんを都知事選に駆り立てた3・11後の日本
元参院議員・円より子が見た面白すぎる政治の世界⑮政治から引退したはずが……
円より子 元参議院議員、女性のための政治スクール校長
トントン拍子で進んだ細川さんの都知事選立候補
宴席には木内さんもいた。私が明るく「木内さん。あちこち声をかけなくても、ここに最適の候補がおられるわよ」と言うと、「円さん。そういうことを軽々と言うもんじゃない。代表は総理も務め、もうすぐ74歳になり、アーティストとして悠々自適の人生を送っておられる。晩節を汚すことになる」と否定的な声が上がった。そう言われて、細川さんは「私は出る気などはないけど、出たからと言って晩節を汚すことになるとは思っていませんね」
ほら、出た。代表はへそ曲がり――。私は心の中で微笑んだ。
その後、事態は意外なかたちで進む。忘年会に参加していた順天堂大学教授の奥村康さんがその翌日、たまたま中川秀直さん(元自民党幹事長)に会い、細川さんが都知事選への立候補にまんざらでもないと伝えると、その場で秀直さんが小泉純一郎さんに伝え、小泉さんは「細川さんが脱原発の旗をかかげて戦うなら、全面的に応援する」と、話がトントン拍子に進んだのだ。
年が明けて早々、私は細川さんと再び食事をしたが、私は「細川さんは都知事選に出る」と確信した。
圧倒された小泉純一郎さんの「原発ゼロ」演説

東京都知事選で第一声をあげる細川護熙候補=2014年1月23日、新宿区
その翌日から、私は一番町の事務所で選対事務局をスタートさせた。すでに木内孝胤さんが鳩山邦夫議員の秘書たちと選挙準備をしていたが、それとは別に、都政の政策づくり、記者会見の内容の詰め、「勝手連」の立ち上げ、マスコミ対応など、土日も休まず、10数人で作業を進めた。
公約の柱は、当然ながら「脱原発」だ。「都知事選でなぜ、原発ゼロか。これは国政マターだ」という批判もあったが、原発事故の収束もできないうちに、原発の再稼働・輸出を進め、「エネルギー基本計画」で原発を重要なベースロード電源と位置づける安倍内閣にストップをかけなければ、日本の将来に禍根を残すという思いが、細川さんを駆り立てたのは間違いない。それは小泉純一郎さんも、そして私も同じだった。
細川さん、舛添要一(元厚労大臣)ら16人が立候補、1月23日に公示された都知事選の期間中、唯一の屋内での個人演説会があった2月4日の光景を、私は今もありありと思い出す。応援演説をした小泉さんの熱演に、司会者として舞台袖にいた私はすっかり圧倒された。テーマはもちろん、原発ゼロ。
「専門家の意見を信じていたが、全部ウソ。コストが他の電源に比べて一番安い? CO2を出さない? 永遠のクリーンエネルギー? これら全部ウソだとわかった。信じていた自分を恥じた。日本は安全第一じゃなく利益第一。
フィンランドのオンカロを視察したが、岩盤でできた島の地下40mに放射性廃棄物を埋め、10万年近く人のからだに触れないようにして保管するという。日本にそんな固い岩盤のところがあるか。トイレのない原発をどんどん作ってきたとはよく言ったものだ。
日本はまず総理が原発をやめると言えばいい。そして予算を自然エネルギーに投下する。何故それを安倍君ができないのか。細川さんが東京都知事となって、この最大の電力消費地からエネルギー政策を変えると言っていくことは大変重要なことだ」
私は科学者でも技術者でもないから、本当のところはよくわからない。だが、小泉さんの話を聞いていると、「そうだ!」という気になる。会場の聴衆もそうだっただろう。とにかくオーラがあるのだ。ただ、この屋内の演説会を設定するのは大変だった。小泉さんは空席が一つでもあると気分を害すると言われていたからだ。

都知事選の応援に駆けつけた瀬戸内寂聴さん(左)、右に細川さん、澤地久枝さん、円=2014年1月29日、吉祥寺駅(筆者提供)

都知事選応援で。左から円、細川佳代子さん、下村満子さん、湯川れい子さん、江端貴子さん=2014年1月27日、三鷹駅(筆者提供)