「天安門事件」30周年と重なった未曽有の香港デモを受けて中国はどうするべきか
2019年06月23日
世界が固唾(かたづ)を飲んで見守っている香港の大規模デモは、一定の成果を挙げて一段落した。
それにしても、6月9日に103万人と発表されたデモの参加者が、1週間後の16日には200万人を超えたというから驚く。主催者発表の動員数だから鵜呑みにはできないにしても、写真や映像を見る限り、大変な盛り上がりだ。
香港の人口が750万人。そのうち中国からの移住者150万人、それに高齢者や子どもたちを除いて考えると、未曽有の参加者数といえる。
容疑者だから、無実の人が含まれるかもしれない。また、中国政府に対して批判的な人を容疑者にでっち上げることもできるかもしれない。“中国化”の波にのみ込まれ、これまで香港が誇りにしてきた「自由」と「民主主義」が息絶えてしまう――。今回の法改正に対し、市民の間にはそうした懸念が広がった。
だが、香港政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、9日の「103万人デモ」に遭遇しても強硬姿勢を崩さなかった。そして、そのデモを評して、「法律を顧みない暴動行為」と決めつけたのである。
1989年、中国・北京を舞台に起きた「天安門事件」を、中国共産党が「動乱」と決めつけたことが事態を急激に悪化させたが、今回も30年前同様、そうなった。
民衆に対決姿勢で臨んだところ、一週間後にはなんと抵抗勢力が倍増した。200万人と対峙(たいじ)すれば、デモはいっそう強力になって、手に負えなくなる。そうなれば、警察の力を借りるどころか、戒厳令の発動や人民解放軍の出動にもつながりかねないという判断が透けてみえる。
ただ、こうした高度な政治判断が、林鄭長官に任されているはずはない。背後にある、中国政府、中国共産党、習近平・中国国家主席が「方針転換」の指示を出したと見るのが妥当だろう。今月末には、大阪で主要20カ国・地域(G20)サミットで開かれる。そこで、習主席が孤立したり集中砲火を浴びたるすることを恐れたのかもしれない。
林鄭長官は記者会見で「改正審議は再開できないと認識している」と発言。さらに香港政府は21日、「逃亡犯条例案の改正作業は完全に停止した」との声明を出し、廃案にする構えを示した。
中国政府、香港政府はなぜ、今回の大規模デモや市民の動向を読み間違えたのか。おそらく、5年前の「雨傘運動」が意外に容易に沈静化したからであろう。
周知のように、香港政府のトップである行政長官は、民主的な普通選挙によって選ばれているわけではない。複雑な手続きによって、中国政府に批判的な人は排除される仕組みになっている。これに対して、民主的な選挙制度を求め、学生や市民が立ち上がったのが2014年秋の雨傘運動であった。
いつ身に覚えのない疑いを受けて、中国司法の闇の中に放り込まれるかわからない。自分が拘束されなくても、家族の誰かがそうなるかもしれない――。欧米流の民主主義に馴(な)れている香港人は、「自由」という価値の大きさを熟知している。
今回のデモの中核は、主婦であり、家族連れであるといわれている。天安門事件や雨傘運動のように、スター的な指導者もいない。このことも、中国政府や香港政府に方針の転換を促したのだろう。
具体的には、まずは香港の司法制度の独立、行政長官の直接普通選挙を実現することが期待される。
デモが撤退する気配は今のところない。運動はおそらく次の目標に向かって再編され、継続するだろう。「逃亡条例案改正案」の廃案に続き、今後は行政長官の退陣、そして普通選挙による後任長官の選出へと要求が発展していくに違いない。
こうした流れを中国が許さず、武力で弾圧することにでもなれば、それこそ一大事である。香港にとって不幸なのはもちろんだが、なにより中国にとって明るい展望は見通せなくなる。
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