トランプ大統領の中東和平案「世紀の取引」に日本はどう対応すべきか
2019年06月24日
イスラエル・アラブ(パレスチナ)関係を40年以上報道してきたエフード・ヤーリ氏は、イスラエルで最も尊敬されるジャーナリストの一人だ。1977年、エジプトのサダト大統領が電撃的にイスラエル訪問をした時、それをカバーしたヤーリ氏は、エジプトからビザを発給された最初のイスラエル人となった。その後も歴代のイスラエル首相、アラファトPLO(パレスチナ解放機構)議長、クリントン米大統領など、中東和平問題に取り組む主役たちにインタビューをしてきた。ネタニヤフ首相とも頻繁に話し合う間柄だという。
筆者は最近イスラエルを訪問した際、ヤーリ氏にインタビューする機会を得た。日本との関連で幾つか質問をしたが、彼の答えは明快だった。
――日本は、トランプ大統領の中東和平案「世紀の取引」を支持すべきでしょうか?
ヤーリ トランプ案に何が含まれているのかまだ分かりません。でも日本は、そして他の政府もですが、それを否定することは何の助けにもならず、危険な状況を生み出すことを認識すべきだと思います。パレスチナによる完全拒絶は、パレスチナ自治政府解体、1993年のオスロ合意からの撤退、果てはイスラエル国認定の取り消し、といった破壊的展開に繋がり得るからです。これはとても危険なことです。全てを後退させてしまうからです。
「和平案全部をそのまま受け入れることはできないかもしれない。でも、何か前向きな内容が含まれていないか検討してみよう。そしてトランプ案を、受け入れるか拒絶するかしか選択肢がない申し出としてではなく、対話の出発点として考えよう」
パレスチナ自治政府はNOと言うでしょう。でも彼らがNOというのは今に始まったことではありません。私は、これまでの人生の全てをイスラエル・パレスチナ関係の報道に費やしてきました。ですから彼らがまたNOと言うだろうことを知っています。でももし、アラブ国や欧州諸国や日本が「拒絶ありきではなく、案を何とかよいものに改善できないか、一緒に考えてみよう」と言ったらどうでしょう。真剣な対話の再開に繋がると私は思います。
パレスチナ自治政府は破産状態で、腐敗しきっています。政治的にデッドエンドに到達しています。彼らは経済活動を生み出していません。例えば、日本が支援するジェリコ農産加工団地プロジェクトから得られるべき利益を得ていません。日本政府の惜しみない支援をフルに生かしていないのです。
湾岸諸国やエジプトなどの国々では、この件に関する論評記事をよく見かけます。それは、「パレスチナ自治政府よ、我々はあなた方のパフォーマンスを何十年も見てきたが、全く何も達成されなかった。あなた方がもっとましな仕事ができるよう、私たちが助けられると思う」といった内容です。私が願っているのも同じことです。トランプ案はエンドゲームではなく、出発点なのです。
――EUはトランプ和平案に何らかの明確な立場をとると思いますが、おっしゃるようなアドバイスをするでしょうか?
ヤーリ 中央・東ヨーロッパのEU加盟国は、EUが極端でネガティブな立場をとることを許さないでしょう。親イスラエルのチェコ・ポーランド・ハンガリー・ブルガリア・ルーマニア・バルチック国・ギリシャ・イタリアなどの国は、この件でフランスやベルギーに主導権を握らせないと思います。
でもアジアの国々も影響力を持っています。あまり知られていないことですが、ネタニヤフ首相はアジアへのピボット(アジア重視政策への転換)に本気で取り組んでいます。オバマ大統領も口では言いましたが、日本が一番知っているように、何も起こりませんでした。しかしイスラエルは本気です。まずインド、そして日本です。日本のイスラエルへの投資は急増しています。
――中国はどうですか?
ヤーリ イスラエルは最近、中国との貿易を抑え始めています。彼らは私たちが売りたくないものまで、あらゆるビジネスとインフラを買いたがっています。イスラエルが大事にするのはインド、日本、そしてシンガポール、ベトナム、タイ、韓国などです。もしこれらのアジアの国々が、パレスチナに、トランプ案を拒否しないで対話の出発点とするよう促せば、その発言は重みを持ちます。
私はさらにその先まで述べたいと思います。私は、
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください