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電撃的な米朝会談に応じた北朝鮮が考えていること

亡命エリート外交官が分析する北朝鮮の真意、思惑、拉致問題解決の秘策とは。

高橋 浩祐 国際ジャーナリスト

拡大講演をする太永浩さん=2019年6月20日

北朝鮮の核戦略について

核保有国として存在を確立できる

 北朝鮮は核を開発し、時間を稼げば、その間にこの地域でのアメリカの戦略は変わっていくだろうと考えている。

 北朝鮮は数十年間、核とミサイルを握ってたゆまずアメリカに脅威を与え続けるならば、いずれ米軍は韓国からひくだろうと考えている。

 アメリカはアメリカの一つの大都市と韓国の自由民主体制を引き換えにしようとは絶対に思わないであろう、と金正恩氏は考えている。したがって、少なくともアメリカのひとつの都市を核ミサイルで攻撃できるのだという備えを見せつければ、今年ではないとしても1年後、2年後、3年後に、あるいは5年後になるかもしれないが、アメリカはいずれ韓国を放棄して北朝鮮の核を認めるだろう、と金正恩は考えている。

 今、アメリカが北朝鮮との核交渉に臨んでいるのは何故か。アメリカは本当に北朝鮮の非核化を達成できると思って交渉しているのだろうか。そうではない。韓国と日本がアメリカにしがみついて、北朝鮮の核保有を止めてくれと言い募るので、その両国の手前、北朝鮮と交渉しているフリをしている。このように北朝鮮は理解している。

 したがって、今後、日本と韓国が北朝鮮の核兵器に対して、だんだん免疫が付いてきてそれほど騒がなくなってこれば、アメリカもおのずと北朝鮮の核保有を事実上認めることになるだろう。そうなれば、北朝鮮はこの地域で核保有国として存在を確立することができると考えている。

自由民主主義の国は構造的弱点を抱えている

拡大北朝鮮が5月9日に行った火力攻撃訓練を指導する金正恩朝鮮労働党委員長=2019年5月10日、労働新聞ホームページから
 その戦略を実現する戦術について、北朝鮮は今、どう考えているか。北の核保有を何とか妨げようとしているアメリカ、日本、韓国の自由民主主義体制は、北の核をなくすには弱い。構造的な弱点を抱えていると考えている。

 アメリカ、日本、韓国の自由民主主義のシステムでは、4年から5年ごとに政権が変わる。新たな政権が発足するたびに、過去の政権のやり方をひとまず脇に置いて、また新たなやり方をしようとする。北朝鮮とは新たな仕切り直しをして交渉しようとする。

 これを利用して、北朝鮮は過去30年間、核問題の交渉においては同じパターンを繰り返してきた。

 どんなやり方かと言えば、自由民主国家で新たな政権が発足すると、その政権と曖昧模糊とした原則的な合意を結んでみせる。原則に合意し、その履行を具体的にどうするのか。北朝鮮はここで解釈の問題を持ち出して、たえずアメリカやその他の国と争いながら2年から3年の時間を稼ぐ。そして、4年から5年経つと、「せっかく良い合意を結んだのに、アメリカと韓国はその履行をしようとしていない」と言い、責任をアメリカと韓国に責任を転嫁する。

 そのうえで何をするかと言うと、皆さんがご存知の通り、2016年、2017年にやったようにわざと緊張を高める。そうすることによって、韓国や日本の市民を不安に陥れる。日本や韓国の市民は、平和を何とか形成しなくてはいけないと思い込んでいく。

 その結果、韓国や日本の一般国民は「平和を実現しますよ」と唱える指導者に票を投じることになる。さらにアメリカ、韓国、日本のいずれの国も、非核化が先か、平和が先かの二者択一を突きつけられる形になる。自由民主主義の国民は、平和がまず優先だ、ということになる。そうして時間を稼いだ後、また新たな政権が発足すると、また新たな合意を結ぶ。

 この5年周期で北の核武装はどんどん進んでいく。この30年間をみると、アメリカも韓国も日本も一貫して北朝鮮の非核化を推進した国はない。政権が変わるたびに政策が変わっている。

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筆者

高橋 浩祐

高橋 浩祐(たかはし・こうすけ) 国際ジャーナリスト

英国の軍事専門誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」東京特派員。1993年3月慶応大学経済学部卒、2003年12月米国コロンビア大学大学院でジャーナリズム、国際関係公共政策の修士号取得。ハフィントンポスト日本版編集長や日経CNBCコメンテーターを歴任。朝日新聞社、ブルームバーグ・ニューズ、 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、ロイター通信で記者や編集者を務める。

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