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私、安田純平は「出国禁止」状態にあります(上)

渡航先は欧州とインドなのに「トルコ」を理由にパスポートが発給されないのはなぜ?

安田純平 フリージャーナリスト

記者会見する安田純平さん=2018年11月2日、東京都千代田区の日本記者クラブ

旅券申請から6カ月になるが…

 私はシリアでの40カ月の拘束を経て昨年10月に帰国した。拘束者に旅券(パスポート)を奪われたため、今年1月に新たな旅券の発給を申請したものの、約6カ月たっても発給されない状態が続いている。

 外務省は「審査中」と言うだけで説明もなく、いつまでかかるのかも示さない。事実上の「出国禁止」状態が続いている。

 私の渡航・取材は100%政府の責任によって制限されている。日本社会に広まっていた「自己責任」の声は聞こえなくなった。

 従来持っていた旅券は2015年6月23日、トルコからシリアに入国した直後に拘束された時点で奪われ、2018年10月25日に帰国した際は、日本外務省から渡された「帰国のための渡航書」を使用した。これは帰国のための臨時のもので、次に外国へ渡航するためには新たな旅券を取る必要がある。

 今年1月4日、東京都旅券課有楽町分室(東京都千代田区)の窓口に新たな旅券の発給を申請する手続きをしたが、新宿パスポートセンター(東京都新宿区)に行くように言われた。「旅券法13条に該当する可能性があるから」だという。

 旅券法13条とは一般旅券の発給等の制限に関わるもので、2項からなっている。

13条1項
外務大臣又は領事官は、一般旅券の発給又は渡航先の追加を受けようとする者が次の各号のいずれかに該当する場合には、一般旅券の発給又は渡航先の追加をしないことができる。
1. 渡航先に施行されている法規によりその国に入ることを認められない者
2. 死刑、無期若しくは長期二年以上の刑に当たる罪につき訴追されている者又はこれらの罪を犯した疑いにより逮捕状、勾引状、勾留状若しくは鑑定留置状が発せられている旨が関係機関から外務大臣に通報されている者
3. 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者
4. 第二十三条の規定により刑に処せられた者
5. 旅券若しくは渡航書を偽造し、又は旅券若しくは渡航書として偽造された文書を行使し、若しくはその未遂罪を犯し、刑法(明治四十年法律第四十五号)第百五十五条第一項又は第百五十八条の規定により刑に処せられた者
6. 国の援助等を必要とする帰国者に関する領事館の職務等に関する法律(昭和二十八年法律第二百三十六号)第一条に規定する帰国者で、同法第二条第一項の措置の対象となったもの又は同法第三条第一項若しくは第四条の規定による貸付けを受けたもののうち、外国に渡航したときに公共の負担となるおそれがあるもの
7. 前各号に掲げる者を除くほか、外務大臣において、著しく、かつ、直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者
2項 外務大臣は、前項第七号の認定をしようとするときは、あらかじめ法務大臣と協議しなければならない。

「私もテレビを見ていて大変だったと思いますが…」

筆者が2019年1月7日の旅券発給申請の際に提出を求められた渡航事情説明書の写し。結婚して姓を変えており家族を守るため自ら黒塗りしてある。拘束時に持っていた旅券の写しをメディアが報道した際も姓や本籍にぼかしが入り、ネットで「在日認定」される発端となった(筆者撮影)
 そこで1月7日、都庁(新宿区)の中のパスポートセンターに行ったところ、通常の「一般旅券発給申請書」に加え、「渡航事情説明書」への記入を求められた。

 氏名や本籍地、職業などの次に「渡航に関する事項」として、渡航目的に「観光」、渡航先に「イタリア、フランス、スペイン、ドイツ、インド、カナダ」、渡航予定期間におおまかに「平成31年1月25日~平成31年3月31日」、渡航の必要性に「家族旅行」と記載した。

 次に別の紙の「事由の詳細」という欄に、シリアでの拘束の経緯を簡単に記入するよう求められた。担当者は次のように理由を説明した。

 「あくまでも外務省の要請なのですが、私もテレビを見ていて大変だったと思いますし、まったく悪いことしていないのであれなんですけど、外務省の要請は、この『1番』に該当するかもしれない審査のために新宿でやってくれという要請なんです」

 旅券法13条に関連して新宿窓口にまわされる申請者には「重要なお知らせ」という紙が渡される。その中に13条1項各号の概要が書かれており、担当者が言う「1番」とは、その中の「①入国禁止」にあたる。

「外国で強制退去になった扱いということですか?」(私)
「その可能性があるということなんです」(担当者)
「トルコ側から何も言われていないんですが」(私)
「トルコ側に照会して少しでも該当する可能性があれば審査するということなんです。それで申し訳ないんですけど、こちらは1号の審査なので、1を『はい』にしてください」(担当者)

 すでに全て記入済みだった「一般旅券発給申請書」の一番下にある「刑罰等関係」という欄の、「はい」か「いいえ」かに印をつける項目のうちの「1」について、すでに「いいえ」に印を入れていたものを「はい」に書き直せという。

 この項目は「外国で入国拒否、退去命令又は処罰されたことがありますか」との質問で、「1号の審査」とは旅券法13条1項1号のことだ。

 以上の書類と、戸籍謄本や帰国ための渡航書を提出した。通常なら1週間ほどで発給され、「審査が長引いたとしても通常は1カ月半ほどで通知される」ということだった。

シリア政府軍の砲撃で両足を失い、レバノンの病院に入院していたシリア人女性。住所が反政府側地域にあり、政府の攻撃で負傷した人は「テロリスト」扱いされ、病院や出入国管理所に行くと拘束されるため、密出国して治療を受けるしかなかった=2012年6月14日、レバノン北部トリポリ(筆者撮影)

「トルコ側の問題ですから…」

 ところが、10日過ぎても連絡がない。外務省の旅券課に電話で問い合わせると、「トルコが強制退去と入国拒否をしているので、旅券法13条1項1号に該当性が出てきているので審査中」という。

「トルコが強制退去と入国拒否にしたというのは、トルコに聞いて分かったのでしょうか」(私)
「そうした情報が入ってくるんですね。特定の課だけでなく局として対応しているので」(旅券課)
「本人は言われていないのですが、どういう罪状なんでしょうか」(私)
「細かいことは言えません。相手国があり申し上げられません」(旅券課)
「手続きとしては通常の審査をしているということでしょうか。私だけでしょうか」(私)
「通常のルーティンでやっていることです。そういう人けっこういますので、その中の1人です」(旅券課)
「私が人質になったからではない?」(私)
「該当性を見てやっていますので、そういうことではないです。法律に該当性があれば審査するということで、個別に判断することです」(旅券課)

 該当性があるかどうかを全ての申請者に対して判断しているとは思えず、当初から私の旅券を発給するかどうか検討していたということだろう。

 次に連絡があったのが3月5日、新宿パスポートセンターからで、

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