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トランプ大統領の安保改定という変化球

来年は日米安保条約の改定から60年。日米安保のあり方を検討する契機にしては

田中秀征 元経企庁長官 福山大学客員教授

トランプ氏が日本から引き出したい譲歩

 おそらくトランプ大統領の今回の発言は、日本が米国の戦争に協力できないのなら、他の分野で大きな譲歩をすべきだという含意があるのだろう。しかし、なんとも俗流の交渉術のように見える。

 来年の大統領選のために、トランプ氏が引きだそうとしている譲歩には、次のようなものが考えられる。

 まずは、農畜産物の関税引き下げと撤廃、そして日本製自動車の高関税化である。いずれも日米貿易交渉の最重要分野となっている。

拡大日米首脳会談に臨む安倍晋三首相とトランプ米大統領=2019年5月27日、東京・元赤坂の迎賓館
 トランプ大統領は5月に訪日した折に、これらについて「7月の選挙後まで待つことになるだろう」と言った。参院選に配慮し、選挙後に決着させることにしたという言い回しである。参院選後、どれだけ譲歩させられるのであろうか。

 実際、大統領は「8月に両国にとって素晴らしいことが発表されるだろう」ともうそぶいている。「両国にとって」と言ってはいるが、「米国第一」を掲げるトランプ政権である。そのほとんどが米国にとって素晴らしい利益をもたらす発表になることは、想像に難くない。

 次に考えられるのは、防衛設備の輸入拡大である。武器や装備は絶えず陳腐化するものだから、高度化したものを米国から買い入れるとなると、かなりの巨額になるであろう。他で成果が挙がらないと、ここにしわ寄せがくるだろう。実際、6月28日の日米会談の冒頭で、トランプ大統領は「武器購入」に触れている。

 米軍駐留経費の負担の大幅増加もありうる。在日米軍駐留経費負担の協定は、2021年に更新されることになっている。かねてからトランプ大統領は劇的な増額を主張してきた。「日本が米軍の駐留経費を全額負担しなければ、米軍の撤退」もあり得ると脅したこともある。

 安保条約の不公平性を批判してきたトランプ氏からすると、この駐留経費の増額は実は譲れないところかもしれない。だが日本はすでに、年間2千億円という巨額の駐留経費を負担している。

より望ましい安保体制について議論を

 来年は日米安保条約の改定、地位協定の締結からちょうど60年にあたる。この間、安保条約について、一度も検討をする機会を持たなかった。

 トランプ大統領が「改定の必要性」まで唱えるなら、わが国としてはむしろそれに同調し、現状、さらに将来の展望から日米安保の必要性について検討することが望ましいのではないか。このままでは駐留経費は日本が払い、安保政策や軍事行動の主導権は米国が握るという、世界で特異な独立になる恐れがあろう。

 ここで安保改定の議論が始まるなら、与党だけではなく野党も、より望ましい安保体制について、独自の案を提供したらどうだろう。

 折からの参院選を前にして、思いがけず日米安保が争点の一つとして浮上してきた意義は小さくない。

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筆者

田中秀征

田中秀征(たなか・しゅうせい) 元経企庁長官 福山大学客員教授

1940年生まれ。東京大学文学部、北海道大学法学部卒。83年衆院選で自民党から当選。93年6月、自民党を離党し新党さきがけを結成、代表代行に。細川護熙政権で首相特別補佐、橋本龍太郎内閣で経企庁長官などを歴任。著書に『平成史への証言 政治はなぜ劣化したのか』(朝日選書)https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=20286、『自民党本流と保守本流――保守二党ふたたび』(講談社)、『保守再生の好機』(ロッキング・オン)ほか多数。

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