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「今だけ、カネだけ、自分だけ」の政治は許さない

「やってる感」はあるが成果に乏しいアベノミクス。国民民主党の新しい経済政策とは

岸本周平 国民民主党衆院議員

国民民主党の玉木雄一郎代表=2019年6月1日、岡山市北区

 参議院選挙が4日、スタートします。安倍晋三政権の「今だけ、カネだけ、自分だけ」の政治を許さず、「安倍一強」を突き崩すべく、国民民主党としても全力で選挙戦を戦い抜く覚悟です。

 今回の選挙で国民民主党がいの一番にかかげるのは「家計第一」です。安倍政権の約7年間の経済政策についての総括を前提に、私たちは家計を第一に持続可能な経済をつくっていきたい。公示を前に、選対委員長として、私たちが目ざす経済、社会について書いてみたいと思います。

資本市場の機能をこわした異次元の金融緩和

 アベノミクス三本の矢は異次元の金融緩和と財政のバラマキが大きな柱でした。消費者物価を2年間で2%に引上げるために、市場に供給するマネーを2倍にし、国債の買入れ額も2倍以上引上げるというアナウンス効果で、スタートダッシュはうまくいきました。

 株安、円高を演出し、その後も、日本銀行に株(ETF)を買わせたり、公的な年金の積立金(GPIF)で株価を支える施策を続け、資本市場のマーケット機能をこわしました。それでも2%の物価上昇目標が達成できなくなると、マイナス金利まで導入しましたが、結局、消費者心理を冷え込ましたうえ、地方銀行の半数が本業で赤字になるだけでした。

Prospr Digital/shutterstock.com
 機動的な財政出動と言うともっともらしいですが、要するに財政規律を無視して財政のバラマキを行っただけでした。そのうえ、消費税の引き上げも2回延期するなど、プライマリーバランスを黒字化するという目標はあっさり放棄しました。

 財政出動は、いわば需要の先食いですから、経済の生産性には何ら影響を与えません。むしろ、生産性の低い公共土木事業に資源配分を厚くすることで、社会全体の生産性を低下させます。金融政策でも生産性を上げることはできません。

 その結果、この間、潜在成長率そのものを引上げることはできませんでした。経済効率などを反映している全要素生産性(TFP)は、2011年をピークに下がり始めていましたが、安倍政権下でも一貫して下がり続け、0.1%程度に落ち込みました。

 三本の矢の三番目は成長戦略でした。金融政策、財政政策で時間を稼いでいる間に、生産性を上げるという説明でしたが、上述の通り、7年経っても「道半ば」です。当初の円安で企業収益は増えましたが、輸出数量を増やすのではく、現地価格を据え置いて収益を増やしただけですから、国内に需要は生みませんでした。

アベノミクスの成果ではない雇用の好転

 一方、円安は、原油や食料品などの輸入価格を引上げ、消費者のふところを痛ませました。さらに、実質賃金のマイナスが続きましたから、消費が伸びるはずもありません。

 安倍総理は、雇用関係の指標の好転を自慢します。しかし、失業率が下がり、有効求人倍率が増えたのは、生産年齢人口の減少という人口動態の構造的変化によるものです。アベノミクスの成果ではありません。

 団塊の世代が大量に引退した結果、女性や高齢者などの労働時間の短い労働者が増えましたから、総労働時間は変わらず、賃金の上昇は限定的です。ある意味、日本経済は完全雇用の状態にあるわけです。しかし、完全雇用の状態にあるのであれば、財政バラマキや、金融緩和で将来にツケを回す政策は不要なはずです。

「やってる感」だけのキャッチフレーズに踊り

 アベノミクスの三本の矢が行き詰まると、今度は「新三本の矢」が登場しました。一つ目が、希望を生み出す強い経済―2020年にGDP600兆円。二つ目が、夢を紡ぐ子育て支援―出生率1.8。三つ目が、安心につながる社会保障―介護離職ゼロ。

 しかし、これらの3項目は政策でなくて、目標です。GDP600兆円はまったく達成できない数字です。出生率はここ3年下がり続けています。介護離職ゼロは単なるスローガンで、2017年の介護離職者は約9万人と逆に増えている状況です。

 安倍政治の特徴は、このような「やってる感」だけのキャッチフレーズが踊ることです。やれ「一億総活躍」だの、やれ「女性活躍」だの、検証不可能な言葉の羅列ですが、今は誰も言いません。「プレミアムフライデー」にいたっては、覚えている人もいないのではないでしょうか。

MMTの実験場と化している日本

AlexLMX/shutterstock.com
 今、MMT(Modern Monetary Policy)という理論が注目されています。自国通貨建ての国債を発行できる政府は財政規律を守らなくても、インフレになるまで債務を発行し続けてかまわないと言うものです。インフレになりそうになったら、増税など緊縮財政にすればコントロールできると言います。それが正しいかどうかはさておき、今の日本はまさに、MMTの実験場と化しています。

 日本銀行が国債を買い続けています。その結果、国債残高の約半分の476兆円を日銀が保有。この過程で、新規発行額よりも日銀の購入額が上回ることもあり、政府の放漫財政を日銀が支えている、いわゆる財政ファイナンス状態です。マイナス金利政策で国債金利も低く抑えられていますから、利払い費も増えません。ますます財政規律をゆるめることになりました。

 これが可能なのは、家計と企業の預金があるからです。個人は将来不安に備えて、苦しい中でも預金を増やします。企業も内部留保を増やしていますから、そのお金を担保に日銀が国債を購入できるのです。高齢化に伴い家計の預金の増加が止まり、企業が投資を始めれば、日本版MMTは、いずれはかなく消えていくしかありません。

 タダのランチはないのです。その意味では、MMTを唱える学者もインフレが起きるまでと限定しており、いつまでもMMT日本版を続けることができないのは自明の理です。増税もせずに、中央銀行がお札を刷って国の財政がまかなえるのなら、ローマ帝国や大英帝国もやったはずです。

「出口戦略」を今からスタートせよ

 こうして見てくると、今の日本は、ディズニー映画のように、急流に浮かぶいかだの上でミッキーマウスとドナルドダックが悪漢となぐり合いしている先に、大きな滝が待ち構えているような状況に見えてきます。

日本銀行Leonid Andronov/shutterstock.com
 「出口戦略」のないまま、日銀は国債購入と株の買い支えを続けています。国債の買入こそスローダウンしていますが、これはマーケットから買えなくなる事態を先のばしするためです。国債は満期がくれば自動的に現金に変わりますが、株は売らない限りバランスシートから消えません。日銀が手持ちの株を売った瞬間に、東証株価は暴落しますから、当面売れません。

 日経平均が1万8千円を割ると日銀保有のETFは赤字になると言われています。その赤字は国民の税金で補てんするしかありません。中央銀行が債務超過になれば、その国の通貨の信認は得られず、円安、高金利、超インフレにつながるリスクが生じます。

 持続可能性のある経済のためには、急ブレーキは踏めませんが、徐々にオーソドックスな金融・財政運営に戻すことが必要です。魔法の杖はありません。日銀保有のETFは日銀のバランスシートからはずしてファンド化し、時間をかけて売却するなど出口戦略を今からスタートさせ、政府、日銀の専門家の英知を結集すべきです。

低所得者層に手厚い政策にウエイトを

 景気対策としては、児童手当の増額や家賃補助、低年金者への給付金など家計を温めるように、消費性向の高い低所得者層に手厚い政策にウエイトをかけるべきです。

 具体的には、児童手当の対象を15歳までから18歳までに拡充し、給付も全員月額1万5千円にします。また、年収5百万円以下の世帯に月額1万円の家賃補助制度を創設します。低所得の年金生活者に最低月額5千円の給付金を支給します。最低賃金は全国どこでも時給1000円以上を目指します。家計を豊かにすれば、GDPの6割を占める消費が活発になり、内需中心の持続可能な成長を実現できます。

 グローバル企業が、激しい世界競争の中で、発展することは大いに結構なことだと思います。しかし、グローバル企業には、「国民経済」という観念はありません。

 世界経済がグローバル化する以前は、企業も政治家も官僚も「国民経済」の発展を考えて行動していました。頑張って売り上げを伸ばし、利益を上げ、従業員の給料をあげれば、消費が増えて日本経済に好循環が生まれます。高度成長の時代ですら、GDPに占める輸出のウエイトは高くなかったのです。輸出企業が儲けて、社員さんのボーナスを増やせば国内産業が潤ったのです。

 しかし、そのような幸福な時代はグローバル経済の進展によって終わりました。企業はコストカットのために、非正規労働者を増やし、正社員の賃金を削りました。この20年間、企業収益が増加しても、トータルの人件費と設備投資は横ばい。株式配当と内部留保だけが増えていきました。グローバル企業が「国民経済」を考えないのは当たり前のことかもしれません。

 しかし、今一度、「国民経済」の復活を考えるべき時になっています。そのためには、中長期的に社会の在りようを変えていくことが必要です。

すべての人が同じスタート点に立てるように

 成熟した日本経済において高い経済成長を目指す必要はありませんし、そもそも無理があります。成長を否定するつもりはありませんが、アベノミクスが前提とする効率最優先の「一億総株式会社化」は、人々の心の荒廃をもたらしただけです。

 協同組合のような参加者の利益や自己実現を尊重する生き方をもっと大切にしてはどうでしょうか。地域では、若者がNPOなどをはじめとして社会起業家として活躍しています。すべてを「自己責任」原則で割り切り、弱者を切り捨てる政治から、価値観の多様性を認め、寛容で包容力のある社会をつくっていくべきです。

 日本はまだまだ、性別や年齢、障がいなど自分の努力では変えられないことでチャンスの少ない国です。すべての人が同じスタート地点に立てるようにすることが、日本の潜在成長力を上げることにつながります。そのための財源は、公平と公正の原則のもとで、金融課税、累進課税、消費税の引き上げなどと同時に、社会保障予算の合理化などのポリシーミックスで賄うほかありません。

 フリーランチもなければ、打ち出の小槌もない。そんな当たり前のことを、正直に国民に訴えていく。国民民主党はそんな愚直な政治を目ざしていきます。

ネット党首討論に臨む(左から)日本維新の会の松井一郎代表、公明党の山口那津男代表、立憲民主党の枝野幸男代表、自民党の安倍晋三総裁、国民民主党の玉木雄一郎代表、共産党の志位和夫委員長=2019年6月30日、東京都港区

「論座」選挙イベントのお知らせ 安倍首相は6年半前に倒れた民主党政権を今なお「悪夢」と批判し、今夏の参院選を乗り切る構えです。安倍首相の国政選挙5連勝の立役者は野党だったといえるかもしれません。日本の政治をまっとうにするには、低迷する野党の再建が不可欠です。「論座」は7月7日、『中島岳志×保坂展人 野党はどう闘うべきか』を開催します。申し込みはこちら→【イベント申し込み