未知の変化が起きる時代を切り拓く政治を。「#令和デモクラシー」に込めた思い。
2019年07月02日
参院選が7月4日に公示されます。国政選挙(衆院選・参院選)で5連勝中の安倍・自民党に、野党はどんな戦いを挑むのか。野党第一党として1人区での候補者一本化など選挙協力を主導、参院選政策「立憲ビジョン2019」ではアベノミクスとは異なる暮らしからはじまる経済モデルを提示した立憲民主党の枝野幸男代表に、公約に込めた思い、参院選の見通し、政権交代に向けた構想などを聞きました。(聞き手 論座編集長・吉田貴文)
――参院選(7月21日投開票)が7月4日に公示されます。2017年10月に発足した立憲民主党として初めて挑む参院選です。
枝野 安倍晋三政権が抱える最大の問題点、隠蔽・改竄体質が年金の「2千万円不足」問題で可視化されるなかで迎える選挙です。
森友・加計学園問題や南スーダンPKOの日報問題、毎月勤労統計の不正調査で、有権者は政権の隠蔽・改竄体質のひどさを感じました。ただ、自分の暮らしとの関わりが間接的だったことで、やがて関心は薄れた。
ですが、金融庁審議会がまとめた「報告書」を麻生太郎・財務相が受け取らなかったことで、すべてがつながりました。隠蔽・改竄体質が自分たちの暮らしにも影響することが分かった。有権者の怒りのマグマは地表近くまでせり上がっています。
――野党はそうした有権者のマグマに応えられるのでしょうか。
枝野 今回の参院選のもう一つの意義は、第2次安倍政権発足以降、野党が初めてしっかりとした構えでのぞむ選挙ということです。32の1人区で候補者を一本化して協力態勢ができました。3年前の参院選でも1人区で野党は一本化しましたが、まだ戸惑いがありました。野党協力の熟度は間違いなく増しています。
枝野 むしろ、ありがたかった。1人区の一本化はできるとは思っていましたが、解散風はそれを後押ししてくれました。また、解散があった場合に備え、衆議院の情報共有も進みました。安倍さんが本気だったかは分かりませんが、私自身は風をものすごくあおりました。
――菅義偉官房長官が5月17日の会見で、野党の内閣不信任案決議案提出は衆院解散の大義になり得ると発言しました。不信任案を出すとき、気になりませんでしたか。
枝野 なぜこの発言をされたのか? 菅さんの発言は、その時点では分からなくても、後で合点がいく。さすが菅さん、ということが多いのですが、これはいまだに分かりません。政権の内部事情に基づく発言なのかな、としかいいようがありません。
――安倍首相は参院選について「安定した政治か混迷の政治か」が最大の争点と言っています。民主党政権は悪夢だったということも繰り返しています。枝野さんは民主党政権の中枢でしたね。
枝野 有権者の意識は、「まだそんなことを言っているの」だと思います。確かに6年前は効果があったでしょう。今も自民支持層を固めるには意味があるかもしれない。だけど、投票に行くかどうか、どの党に入れたらいいか迷っている人たちには響かない。「6年前から野党の悪口しかいっていないじゃないですか」というわれわれの指摘はかなり効いています。
――このほど発表した立憲民主党の参院選政策「立憲ビジョン2019」のキャッチフレーズは「#令和デモクラシー」。どういう含意ですか。
枝野 安倍政権、相手にせず! それがそこに込めたメッセージです。
――どういうことでしょうか?
そこで、人口減少と高齢化、価値観やライフスタイルの多様化、生活の不安定化が進み、国際社会も不透明さを増すなかで、様々な課題を可能性に変え、未来を切りひらくための価値観と社会のあり方の転換をするための政策を、「ボトムアップ経済への転換」「多様性を力にする社会への転換」「参加型社会への転換」の3つのパラダイムシフトとして示しました。この三つをくくる言葉として考えたのが「令和デモクラシー」です。
――要は、ポスト安倍政治を目ざすということですか。
枝野 安倍政治だけじゃない。その前の民主党政治も含め平成の政治は過去のもの。すでに次の時代に入っているという問題意識です。
枝野 私はここ10年ぐらい、特にテーマを与えられなければ、演説ではいつも経済の話をしてきました。ボトムアップ経済は私の持論です。
――エダノミクスですか。
枝野 それは自分からいう話ではない。
――アベノミクスに対し、エダノミクスとして打ち出してもいいと思いますが、アベノミクスとの違いはどこですか。
枝野 発展途上だったかつて日本は、輸出で稼いだお金を、政治が農村にまでうまく分配することに成功した。だけど、先進国になった今、アベノミクスは輸出でお金を稼げるようにアクセルを踏み、その点では成功したが、うまく国内に分配されませんでした。
――企業が稼げば、その恩恵が庶民にまで下りてくるというトリクルダウンは結局、起きなかったですね。
枝野 昭和の終わりごろから、トリクルダウンが起きない構造になっています。発想を変え、ボトムアップの経済にするしかない。
――具体策が「#令和デモクラシー」の第一のビジョン「暮らしからはじまる経済成長」ですね。「最低賃金1300円」の5年以内の実現や、医療・介護・子育てへの支援の拡充を掲げていますが、ポイントはどこにありますか。
枝野 二つあります。まず、需要の多い重要な公的サービスでありながら、賃金が安いために供給が不足している公的サービスに資金をシフトすること。介護・医療・保育分野で賃金引き上げは、その一例です。もう一つは労働法制の強化。希望すれば、正規社員になれる構造に変えないといけない。
労働については、平成時代に「合成の誤謬」が大規模に起きたと思っています。企業経営者にすれば、いかに安い賃金で、いらなくなったら解雇しやすい労働力で生産するかを考えるのは合理的です。そこで低賃金の非正規労働者をつくり、それを政治が後押ししたら、消費者に購買力がなくなり、企業がいくら安くて良いものを出しても売れなくなった。結局、自分で自分の首を絞めたのです。
そこからの転換は経営者にはできない。というか、株主への責任を考えると転換してはいけない。日本全体のために、経営者の合理性だけを聞いていたらダメということで、政治が変えないといけないのです。
枝野 そうですね。ただ、私の問題意識からすると、いまの経済の話、さらに三番目の「参加型政治への転換」の話と一体です。根本にあるのは、ライフスタイルが多様になったことです。
ほとんどの人の暮らしが右肩上がりだった高度成長期には、社会のあり方はある意味、画一的でした。今は違います。たとえば、高齢者といっても、国民年金か厚生年金かでもらえる年金に天と地の開きがある。資産のあるなし、持ち家かどうか、子供がいるいないで、生活はまったく変わる。また、かつては学校を卒業して就職したら、その会社にずっと勤めたけれど、正規雇用が崩れた今は、働き方も様々です。
ライフスタイルが多様になったのだから、政治もそれに合わせて、多様性をいかすようにしないと国民をハッピーにはできません。
さらに、日本がこれから世界のなかで生きていくには、変わった意見がますます大事になります。規格大量生産で新興国にかなわなくなった今、日本に必要なのは新しい価値を生み出すことです。そのためには、現在のマジョリティーとは異なる考えを大事にせざるを得ない。たとえばLGBTQ(性的指向・性自認)にしても、多数ではない人たちが生きやすい社会をつくることで、新しい創造性がうまれてきます。
――一見ニッチに見える多様性というテーマを、大きく掲げたのはどういう理由でしょうか。
枝野 選択的夫婦別姓やLGBTはマイノリティーの話だと僕もかつては思っていました。僕個人、選択的夫婦別姓導入を1993年の最初の選挙からずっと訴えてきましたが、党の政策として高く掲げようとは思わなかった。ところが、レインボーパレード参加者が年々急え、LGBTをカミングアウトして選挙で勝つ例も出てきた。
たとえば北海道の道議選では、LGBTをカミングアウトし、4人区で勝っている。僕が思う以上に、世の中は変わっている。勇気をもって高く掲げれば、大幅に加速できるのではないかという意識からですね。立憲民主党を立ち上げたことで、こうした問題を取り上げやすくなったのも間違いないですが。
――立憲民主党のコアな支持者向けということですか?
枝野 行き場を失っている無党派の皆さんに対してのメッセージでもあります。選択的夫婦別姓やLGBT、障がいやセクハラ被害、DV対策など反応して投票先を選ぶ人の数は、全体からすると小さいからもしれないけれど、今まで政治がメインには掲げてこなかったテーマを掲げる政党は、先ほど述べたように、ライフスタイルが多様になった今の日本に必要だと思っています。
――消費税についてお聞きします。立憲民主党は「消費税10%への引き上げを凍結」ということですが、社会保障の持続可能性を考えたとき、それでいいのでしょうか。
直間比率のアンバランスがその後、ますます加速したのも事実です。企業が収益を上げても法人所得税がほとんど払われていない、金融所得課税が低すぎるといった問題が、顕在化しました。
あと、5%に上げる(1997年)ところまでは、駆け込み需要とその後の落ち込みをならしてトータルでみると、消費税は必ずしも消費にマイナスの影響を与えていなかった。平成の真ん中ぐらいまではそうでした。ところが、8%に上げたとき(2014年)は、経済構造の変化もあって、明らかに持続的に消費を冷え込ませた。
僕は2012年までは「消費税増税やむなし論」でしたが、この6年で、当面は無理、他の財源でやっていくしかないと、確信を持ちました。税のあり方を考え直さないといけない。僕は直間比率の逆見直しという言葉を使っていますが、これも大きな意味でパラダイムシフトです。企業に収益が貯まって世の中に流れない。経済合理性からすると、意味なく給料をあげるわけにはいかないとすれば、国が税金としてお預かりし、分配して消費を喚起することで、経済の底上げを図るしかない。それも政治の役割です。
――憲法はいかがですか。安倍首相は「憲法の議論すらしない政党を選ぶのか、議論を進める政党を選ぶのかを決めていただく選挙」と言っていますが。
枝野 野党の悪口を言っているだけです。しかも、事実に基づいていない。憲法審査会でわれわれは採決には反対したが、議論には反対していない。国民投票法を変えるなら、テレビ広告規制の議論をしましょうと言ったのに対し、議論なしに採決しようとしたのは自民党です。自民党のほうが議論をしない政党。安倍さんの発言は事実に反するレッテル貼りです。
立憲民主党としては、解散権の制約や知る権利となど、立憲主義に基づく憲法論議は進めるという立場ですが、まずは国民投票法の決着を付けないと先に進みません。
枝野 結党時の勢いが何年も続いたらおかしいと思います。そもそも野党の支持は常に選挙直後がマックスで、次の選挙に向けてなだらかに落ちていく、その点ではまったく順調。思っていたよりもいいぐらいです。選挙ブーストがどれぐらいあるかで変わってきますが、いずれにせよここからの勝負です。
――今の世論の空気をどう見ていますか。投票率は上がるでしょうか。
枝野 繰り返しますが、投票先が決まっている両サイド以外は、行き場がなくて困っている状態がずっと続いています。また、自民支持層には自民党はいいけど安倍さんは嫌いという比率が増えていて、投票に行かない人もあると思っています。全体の投票率うんぬんよりも、投票先に迷っている層に、どう働きかけるかだと思っています。そこで重要なのは、先に述べたポジティブなメッセージです。
――世の中には立憲民主党は政権をとるつもりがあるのかという声が結構ありますが。
枝野 どうしてそう言われるのか、意味が分からない。根拠があって言っているのか、イメージだけでなのか。
ただ、あえて言うと、僕は単に政権をとることを目的にしているのではない。政権をとって期待に応える結果をだすということまで考えてやっています。政権奪取だけを目的にして期待に応えられなかった2009年政権交代の二の舞いはしない。もしかしたら、そういうところが、「がめつさ」がないと言われるゆえんかもしれないけれど、無理を重ねて政権をとっても1年で壊れたら、今度こそ民主主義が立ち直れなくなる。
われわれが政権をとったら、少なくとも5年くらいはもたせます。そのことも視野に入れて今、何ができるかを考えて行動しています。
枝野 その可能性はぜったいにあると思います。
――立憲民主党にも政権運営を経験した人が何人かいます。枝野さんも官房長官や経産相を経験されました。
枝野 第2次政権以降の安倍内閣が長く続いた要因の第一は、野党がもっとも弱い状況のときに政権をとったこと。二つめの要因はマネージメントのうまさです。実際、見習うべきことはたくさんある。特に菅さんの政権の裁き方、官邸の裁き方は勉強になります。われわれのときに応用できないかと思っています。
――今、なすべきことはなんですか。
枝野 必ず来る政権交代に向けて、参院選でしっかりと足場を固めることですね。
――参議院選挙の目標議席数は。
枝野 メディアにつられることなく、最初から最後まで全員投票を目ざすとしかいいません。
――平成初の参院選(1989年)では、社会党が大勝、土井たか子委員長が「山が動いた」と言いました、令和初の参院選はどうでしょうか。
枝野 参院選の公約を「令和デモクラシー」としたのは、何十年か先に、あの選挙から令和デモクラシーが始まったと言われるような結果にしたいという思いからです。自分からいう言葉ではないかという意見もありましたが、「その意欲はいいじゃない」ということでそうしました。
「論座」選挙イベントのお知らせ 安倍首相は6年半前に倒れた民主党政権を今なお「悪夢」と批判し、今夏の参院選を乗り切る構えです。安倍首相の国政選挙5連勝の立役者は野党だったといえるかもしれません。日本の政治をまっとうにするには、低迷する野党の再建が不可欠です。「論座」は7月7日、『中島岳志×保坂展人 野党はどう闘うべきか』を開催します。申し込みはこちら→【イベント申し込み】
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください