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政治とメディアの「金属疲労」 テレビ討論に限界

アメリカ大統領選に向け、民主党候補を選ぶためのテレビ討論が始まった。

奥村信幸 ジョージワシントン大学客員研究員 武蔵大学教授(ジャーナリズム)

硬直する候補者選びの過程

 候補者を出演させている民主党の戦略も、「もう少し何とかならないのか」という印象だ。民主、共和両党の大統領候補者選びは、本選挙の1年くらい前に、党内の有力議員が立候補を表明し、地方遊説での有権者とのやりとりや、経歴についての調査報道、このようなテレビ討論会やタウンホールミーティングなどを経て、支持者の拡大や選挙資金の獲得に限界を感じた人が脱落していき、選挙年の夏に開かれる党大会で最終的な候補者を立てるというシステムをとっている。

 しかし、今回は24人もが名乗りを上げる「異常事態」。黒人の女性や、自らをLGBTQと公式に認める候補者もいて、ダイバーシティー(多様性)が発揮されているのは民主党ならではとも言える。しかし、おそらく有権者の多数は、全員の名前を覚え切れていないのが実態のようだ。CBSテレビの深夜トークショーホストのステファン・コルベアは1日目の討論会を「きょうは2日目の前座で(バイデン前副大統領やサンダース上院議員ら注目されている人が2日目に集まった)、ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州)と、ブッカー上院議員(ニュージャージー州)、オルーク元下院議員(テキサス州)と、MSNBCに怒っている7人(後半1時間はMSNBCが担当したが上記3人以外の発言機会が非常に少なかった)」と、笑いを誘っていた。

政治とメディア拡大テレビ討論の1日目にはウォーレン上院議員(中央)、オルーク元下院議員(向かって右)、ブッカー上院議員(向かって左)ら10人が登壇した=2019年6月26日、AP

「民主主義を取り戻す」選挙

 2020年の選挙は、民主党が大統領の座を奪回するという党派的な問題を超えて、トランプ大統領という1日十数件のミスインフォメーションやミスリードなコメントを振りまき、人種差別的な発言を何とも思わず、民主主義のプロセスを尊重しないリーダーから政治の信頼を取り戻すという、重要な意味を持つはずだ。

 そうなのであれば、候補者討論会を前倒しで始めるような小手先の解決策で、候補者の脱落を悠長に待つような従来のやり方でなく、医療保険改革、移民、銃規制、富裕層の課税などについて合意できるポイントを調整し、候補者の合従連衡を促すとか、長老政治家に、可能性が低い候補に断念を促すなど「政治の知恵」が発揮されても良さそうなものだが、6月末の時点では、その気配すらない。

 候補者同士の競い合いが激しくなると、わかりやすさと明快さを求めて、「左寄り」の政策の主張が増え、結果的に中道の有権者の支持を得られなくなるのではと危惧する声などもある。

 米ジャーナリズム界のレジェンド、ニューヨーク・タイムズのワシントン支局長などを務めたビル・コヴァッチは「足の引っ張り合いで飛び交う膨大なネガティブな情報を、トランプ大統領が、最終的に決まった民主党候補者に対する攻撃材料として利用することの方を心配するべきだ」と指摘した。しかし、ペロシ下院議長ら大物議員たちが調整に乗りだそうとしているようには見えない。党内にはあらかじめ決めた政治日程をつつがなく運営する組織とノウハウはあるが、政治リソースの浪費を防ぐ柔軟性は欠けている。

 スマートフォンとソーシャルメディアの時代に、政治のアクターたちも、対応できていないのではないか。

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筆者

奥村信幸

奥村信幸(おくむら・のぶゆき) ジョージワシントン大学客員研究員 武蔵大学教授(ジャーナリズム)

1987年、 国際基督教大学(ICU)教養学部社会科学科卒業。1989年、上智大学大学院外国語学研究科国際関係論専攻博士前期課程修了(国際関係学修士)。1989年、テレビ朝日入社(報道局「ニュースステーション」・政治部記者・編成部などに勤務)。2002年、米国フルブライト奨学金ジャーナリスト・プログラムにてジョンズホプキンス大学客員研究員。2005年、立命館大学産業社会学部准教授。2008年、米国ジョージワシントン大学客員研究員。2009年、早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。2010年、立命館大学産業社会学部教授。2013年より武蔵大学社会学部メディア社会学科教授。現在サバティカルで米国ジョージワシントン大学客員研究員。専門は、「ジャーナリズム」「政治とメディア」「マルチメディア・ジャーナリズム」。

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