「民主党政権の悪夢」の呪縛を解き放て
野党共通政策を具体的に掲げて与党に迫り、取り込ませる。そのリアリティが勝利の鍵だ
保坂展人 東京都世田谷区長 ジャーナリスト
「論座」イベントのお知らせ 参院選が始まりました。安倍首相は「民主党政権の悪夢」を強調し、6年半の長期政権を維持してきました。野党はどう対抗すればよいのか。「保坂展人×中島岳志 野党はどう闘うべきか」。7月7日開催。残席わずかです。申し込みはこちら→【イベント申し込み】
「自己責任」を繰り返したシングルマザー
あれは、17~18年前のことでした。
ある言葉をめぐって、夜遅くまで、平行線の議論をしていたことを思い出します。
彼女はシングルマザーで子育ての最中、お子さんには障がいがありました。会話を重ねていくと 「自己責任なんです。私は社会に救済は求めません」「ここで頑張るかどうか、すべては自分の責任です」と繰り返しました。
彼女は何度も「自己責任」を強調しました。
「ひとりで生きられないから、社会保障があるんです。自力で頑張ることも大事ですが、社会的支援を受ける必要がある時もあるんです。何もかも『自己責任』にしてしまえば、政治や行政は何のためにあるんですか」と私は問いかけました。
「そう考える人はその人の自由。私は、社会に期待しません。すべては、自己責任だと思います」と彼女は絶対に譲りませんでした。
エンドレステープのように、「自己責任」を語り続ける彼女に対して、私は「社会的連帯」や「相互扶助」を説きましたが、かたくなに受け入れてもらえませんでした。
「自己責任……か。どうして、この4文字に収斂してしまうんだろう」
私は、固い岩盤のような彼女の価値観にはねかえされ、角度を変えながら対話を試みました。
「痛みをともなう構造改革」を呼号する小泉純一郎首相が高い支持率を誇っていた頃の話です。現在のように「自己責任」という言葉が氾濫する前で、私はこの4文字をどうしても飲み込めずに異物感を覚え、妙に耳に残り続けたことを記憶しています。