「民主党政権の悪夢」の呪縛を解き放て
野党共通政策を具体的に掲げて与党に迫り、取り込ませる。そのリアリティが勝利の鍵だ
保坂展人 東京都世田谷区長 ジャーナリスト
貧困層に広がる「自己責任」論とあきらめ
そして、あの時の彼女のような考え方をする人たちは、増え続けました。
当時は、国会で小泉首相と「日本社会に『格差と貧困』があるのかどうか」と議論していた時代でした。今や、日本社会に「貧困と格差」が拡大していったことは、誰もが認めるようになりました。
「この貧困、自己責任だもの 格差認め自民支える若者たち」(2019年7月1日・朝日新聞デジタル)
総務省の調査によると、2018年の非正規雇用は10年前と比べ350万人あまり増え、約2120万人となった。働き手に占める割合は約38%と過去最高の水準にある。背景には、バブル崩壊後の雇用情勢の悪化や自民党が進めた規制緩和などがある。
格差の拡大や貧困を、政治の問題とは感じないのか、と尋ねた。「仕方がないって思う。自分がこうなったのは自分が考えた結果だから」。返ってきたのは、そんな言葉だった。
この記事には、「自己責任論を肯定するかどうか」という調査結果が紹介されています。
早稲田大学の橋本健二教授(社会学)の分析によれば、「格差が広がってもかまわない」と考える人の割合は、この10年間で各所得層で増えた。しかも増加率は貧困層で最も高く、貧困層の4人に1人は、我が身にふりかかる不利益を受け入れている。そして、貧困層の4割は自己責任論を肯定する。
政治に多くを期待しない、だがかろうじて維持している「現在の生活」が瓦解するようなら、現政権と自民党を支持するという声につながります。
また、その傾向と結びついて、若年層や非正規労働で「格差と貧困」の渦中にある人々が、その原因を「社会のルール変更」である政府の政策に求めることなく、「自己責任」とあきらめて政権与党以外の選択肢を求めないという価値観が広がったことが、長期政権を支えています。

党首討論会で発言する立憲民主党の枝野幸男代表=2019年7月3日、東京都千代田区
希薄な「野党の存在感」
乾いた諦念と現状追認のムードが広がったのは、安部晋三首相がいつまでも口にする「悪夢のような民主党政権」の記憶と、「それよりはまし」という大衆意識がいまだに強いからと言われていました。
「民主党政権の失敗」「それよりはまし」という単純化されたイメージがここまで長続きしているのは、「野党の存在感」が希薄であったことと裏表の関係にあります。
参議院選挙は4日に公示されました。17日間の選挙戦が始まります。
この選挙を通して、野党党首が街頭演説やコメントで発する「言葉」によって、一見すると磐石に見える「現状追認」の壁を突き崩せるかどうか情勢は急転します。待たれているのは「怒りの言葉」であり、「現状を突き破ろう!」という魂を揺さぶるメッセージだと思います。
有権者の日常的心情には、「怒りの表出」を阻害する「自己責任」のロックが複数かかっています。そもそも「政治」と「自分の生活」は無関係だとさえ感じている人も多数です。
「ちょっと待てよ。投票で世の中って変わるかもしれないな」と一陣の風が錆びついてしまったロックを外すためには、遠くから聞こえてくる「国民の皆様」的な一昔前の「政治家言語」は無力です。