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日本で暮らすロヒンギャの人々のほとんどが群馬県館林市に

 日本にはロヒンギャの人々が300人ほど暮らしており、そのほとんどが、群馬県館林市に暮らしている。父の長谷川健一さんは在日ビルマロヒンギャ協会の会長を務めており、留理華さんも頻繁に舘林と東京の自宅を行き来する。4人の子どもたちの母親でもあり、一番下の子どもはまだ8カ月だ。小学生から乳児まで、子育てにも奔走する。

 この日作ってくれたのは、朝ごはんの定番であるモヒンガだ。まずは麺と共に味わう具材を仕上げていく。「ひよこ豆を食べると、ラマダン(イスラム教徒が行う断食)の時期にも体力がもつし、料理に入れると上品な仕上がりになるんです」と、こんがりきつね色になるまで揚げてくれた。

拡大手際よい包丁さばきで、あっという間に具材を仕上げていく

拡大食欲をそそる“焼き色”にも、留理華さんはこだわる

瑞々しいパクチーが入ったモヒンガ

 揚げ物の手を休めると、留理華さんはおもむろに庭へと出向いた。裏庭には所せま しと小さな緑が芽吹き、日が照るとまぶしいほどだった。ミントなどのハーブや、イチゴやライムといった果物まで育てている自慢の庭だ。「薔薇の季節には、近所の人が立ち止まって皆写真を撮っていくほど美しいんです」と胸を張る。モヒンガに入れるために摘んでくれたパクチーは、これまで食べたことがないほど瑞々しい。

拡大キッチンの裏手は、手入れの行き届いた庭が広がっていた

拡大その場で留理華さんが摘んでくれたパクチー
 好みの量のパクチーと、パリパリの揚げ物、麺を濃厚なスープに浸していく。魚ダシの効いたスープに、もちもちとした食感の麺がよく合う。ミャンマーではナマズや鯉でダシをとるそうだ。

拡大レモンとパクチー、そして唐辛子で、自分好みの味付けをしていく

 モヒンガはロヒンギャの料理というよりも、かつて暮らしていたミャンマー最大の都市、ヤンゴンで食べていた味だという。デザートは、家族の中で慣れ親しんできたセマイを作ってくれていた。糸のように細い麺を短めに切り、ココナッツミルクと共に煮たものだ。庭でとれた自家製のシナモンの香りがほのかに香ってくる。「セマイは夏バテにも効くと言われているんです。ラマダンの終了を祝うイードのときは、仏教徒たちも食べにくることがありました」。

拡大優しい甘さが口いっぱいにひろがる「セマイ」

 自分の作った料理で、誰かが喜んでくれることが幸せ、と朗らかに語る留理華さん。ティダという名前の通り、太陽のように快活でエネルギーにあふれた彼女だが、これまでの歩んで来た道のりは、壮絶な体験の連続だった。


筆者

安田菜津紀

安田菜津紀(やすだ・なつき) フォトジャーナリスト

1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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