戦後日本の「現在」を憎悪し否定した作家・桐山襲
2019年07月09日
寺島実郎が『世界』6月号(岩波書店)に衝撃的なことを書いている。3.11の福島第一原発事故の際、「米軍による日本再占領」が検討されていたのだという。衝撃的ではあるが、筆者は当然のことだとも感じる。あの非常時において、日本の体制は当事者としての対処能力を致命的に欠いているという事実をさらけ出したからだ。
なにもそれは原子力ムラのエリートたちだけではない。何が起きても「本気」になれない人たち。いまこの国を崩れ落ちるにまかせているのは、この無気力ではないのか。
いつからこの国はこんな有り様になったのか。この度、作品社から『全作品Ⅰ,Ⅱ』(2巻)が刊行された作家、桐山襲は今を去ること30年前、第一の創作動機として「現在への憎しみ」を挙げていた。1949年に生まれ、学生時代からその早過ぎる晩年に至るまで(1992年没)新左翼運動にコミットした桐山にとって、「現在」あるいは戦後日本は、唾棄すべき対象にほかならなかった。
ただし、「戦後日本の虚妄」やら「戦後民主主義の欺瞞」といったフレーズには、右からのものであれ、左からのものであれ、たっぷりと手垢が付いている。それは、桐山がデビューした時代(1983年)において、すでにそうだった。1970年、三島由紀夫は、自決の直前に、戦後の日本を「私はほとんど「生きた」とはいえない。鼻をつまみながら通りすぎたのだ」と述べていた。
だから、肝心なのは「現在に対する憎悪」の強度なのだ。桐山襲は、その強度において突出した書き手であった。
本稿では、桐山の処女作にして代表作と目される『パルチザン伝説』(1983年)の内容について考えたい。同作品は、虚構を混じえつつ、実際の事件、すなわち、東アジア反日武装戦線による連続企業爆破事件ならびに同グループによる昭和天皇暗殺未遂事件についての貴重な史料となっている。
連続企業爆破事件とは、1974年8月30日に三菱重工本社(東京丸の内)に爆弾が仕掛けられ爆発、8名が死亡、385名が負傷した事件を皮切りに、翌年5月までの間に企業等を対象として発生した合計9件の爆弾テロ事件を指す。これらを実行したのは「東アジア反日武装戦線」を名乗った、全共闘運動のノンセクト・ラジカルを出自とするグループであり、その主要メンバーは、75年5月19日、一斉逮捕された。ただし、メンバーのうち、桐島聡は現在も全国指名手配逃亡中であり、逮捕された者のうち佐々木規夫、大道寺あや子、浴田由紀子の3名は、日本赤軍の起こしたクアラルンプール事件、ダッカ事件により、超法規的に釈放され、国際指名手配中である。その意味で、この事件はいまだ終結していない。
連続企業爆破事件は、1995年のオウム真理教による毒ガステロ事件が発生するまで、その犠牲者数において近代日本史上最大のテロ事件であった。にもかかわらず、
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