牧野愛博(まきの・よしひろ) 朝日新聞記者(朝鮮半島・日米関係担当)
1965年生まれ。早稲田大学法学部卒。大阪商船三井船舶(現・商船三井)勤務を経て1991年、朝日新聞入社。瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金(NED)客員研究員、ソウル支局長などを経験。著書に「絶望の韓国」(文春新書)、「金正恩の核が北朝鮮を滅ぼす日」(講談社+α新書)、「ルポ金正恩とトランプ」(朝日新聞出版)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
6月30日、板門店でトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が3度目の会談を行った。トランプ氏が軍事境界線を越えて北朝鮮区域に入っても、強面で知られる米シークレットサービスは誰も追いかけなかった。唐突に決まった政治ショーであることを、世界中に知らしめた瞬間だった。
肝心の会談は53分間、韓国側区域の「自由の家」で行われた。
複数の関係筋によれば、金正恩氏は7月中にも米朝実務協議に応じる考えを表明した。米国務省のビーガン北朝鮮政策特別代表の新しい交渉相手として、具体的な名前も紹介した。過去、6者協議に出席した経験のある外交官で、肩書は大使だという。私の周囲の専門家たちは、国連代表部公使やベトナム大使などを務めた金明吉氏の可能性が極めて高いとみている。
そして肝心の非核化を巡る対話はどうだったのだろうか。
トランプ氏も正恩氏も、2月のベトナム・ハノイで合意に至らなかったことを残念がり、信頼関係を維持して対話を続けていくことに言及したが、核兵器と弾道ミサイルの開発をどうやって放棄していくかという具体的なやり取りはなかったという。
ここで私が非常に興味をそそられたのは、金正恩氏がトランプ氏に投げかけた「お願い」だった。
トランプ氏の頭にはハノイ会談でのやり取りが残っていたようだ。「経済制裁は維持するが、非核化が進めば状況は変わっていくだろう」という趣旨の発言をしたそうだ。
ハノイで、正恩氏が「寧辺核施設全てを放棄するから、米国は国連制裁決議の一部解除を主導してほしい」と繰り返し求めたことを意識した発言とみられる。
ところが、正恩氏は今回、トランプ氏に対して、制裁の緩和を求めなかったという。ただひたすら、安全保障への協力を求めた。正恩氏は安全保障の詳細な中身については紹介しなかったが、おそらく金正恩体制の保証を求めた発言とみられる。米国が金正恩体制の打倒を図って内政干渉をしないよう要求したのだろう。
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