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北朝鮮、揺れる要求/核保有の野望隠す意図か

牧野愛博 朝日新聞編集委員(朝鮮半島・日米関係担当)

拡大6月30日、南北軍事境界線にまたがる板門店を歩く金正恩朝鮮労働党委員長とトランプ米大統領、文在寅・韓国大統領(中央の3人)=労働新聞ホームページから

ころころ変わる金正恩の要求

 正恩氏がトランプ氏に安全保障を求めたのは初めてではない。

 昨年6月、シンガポールで行われた初めての米朝首脳会談でも、正恩氏は「朝鮮半島の非核化を実現するためには、体制の保証が必要だ」と繰り返し、トランプ氏に迫っている。それが、シンガポールでの米朝首脳共同声明に「新しい米朝関係の構築」「朝鮮半島の平和体制の構築」という文言に結実した。

 ただ、正恩氏の要求はその後、ころころと変わった。

 正恩氏は昨年10月、平壌でポンペオ米国務長官と面会した。このとき、正恩氏が繰り返して求めたのは、朝鮮戦争の終戦宣言だった。

 正恩氏は「爆破した豊渓里の核実験場に、米査察団の立ち入りを認める」「寧辺核施設も永久に廃棄するので、米国も相応の措置を取って欲しい」と説明。ポンペオ氏が「相応の措置とは何か」と聞くと、正恩氏は「終戦宣言だ」と即答した。ポンペオ氏が「寧辺と豊渓里とでは、終戦宣言との交換にはならない」と突っぱねると、正恩氏は「なぜ、私を信用しないのか。私が米国を攻撃するとでも思っているのか」「終戦宣言を発表しても、在韓国連軍司令部の解体や在韓米軍の撤退などは求めない。それでもダメなのか」と食い下がった。

 このとき、正恩氏は「国内の経済状況は良くない」とは語っていたが、具体的に制裁を解除してくれとは言っていなかった。この会談前には、韓国政府が折衷案として、米国と北朝鮮の連絡事務所を平壌とワシントンに相互設置する案を、双方に提案していたが、正恩氏が終戦宣言に強いこだわりを見せたため、議論はそこまで発展しなかった。

 そして今年2月のハノイでの第2回米朝首脳会談。米側は、過去の正恩氏の主張を分析したうえで、終戦宣言と連絡事務所で多少柔軟な態度をみせることで、非核化を巡る北朝鮮の譲歩を引き出す戦略を練った。実際、事前の実務協議で、北朝鮮も積極的にこの議論には応じた。シンガポールでの共同声明を基礎に、「連絡事務所の相互開設などを通じて米朝関係の改善を目指す」「米朝で政治的な宣言などを行いながら、朝鮮半島の平和体制を構築する」といった表現を詰めていった。

 ところが、正恩氏がハノイでの首脳会談で強くこだわったのが、「2016年から17年にかけて国連安全保障理事会が採択した北朝鮮制裁決議5件で、民間経済と市民生活に影響を与える項目の解除」だった。米側は「制裁の核心であり、応じられない」と突っぱね、この会談は「ノーディール」で終わった。

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筆者

牧野愛博

牧野愛博(まきの・よしひろ) 朝日新聞編集委員(朝鮮半島・日米関係担当)

1965年生まれ。早稲田大学法学部卒。大阪商船三井船舶(現・商船三井)勤務を経て1991年、朝日新聞入社。瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金(NED)客員研究員、ソウル支局長などを経て、2019年4月より現職。著書に「絶望の韓国」(文春新書)、「金正恩の核が北朝鮮を滅ぼす日」(講談社+α新書)、「ルポ金正恩とトランプ」(朝日新聞出版)など。

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