松下秀雄(まつした・ひでお) 「論座」編集長
1964年、大阪生まれ。89年、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸、与党、野党、外務省、財務省などを担当し、デスクや論説委員、編集委員を経て、2020年4月から言論サイト「論座」副編集長、10月から編集長。女性や若者、様々なマイノリティーの政治参加や、憲法、憲法改正国民投票などに関心をもち、取材・執筆している。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「家族」に過大な負担を強いてきた結果、立ちゆかなくなっているこの国
そんなことをいったって、年金は先細らざるをえない。いまと同じ額を給付していたら、若い世代が耐えきれないよ……。
そういう指摘もまた、否定しがたい事実だろう。
私たちは年金の保険料を納めているけれど、それを積み立てて老後に給付するわけではない。お年寄りの年金の原資は、現役世代の保険料や、税金などでまかなっている。息子や娘が年老いた親を養うのと同じことを、社会全体に広げておこなっているのだ。だから「減らすのはけしからん。とにかく出せ」というばかりでは、いまのお年寄りはよくとも、現役世代の負担が重くなり、年老いたあとに受け取る年金も減りかねない。
この問題に簡単な解決策はない。だからこそ、年金の土台である社会の構造から考えなければならない。
年金はなぜ先細るのか。いうまでもなく、原因は少子高齢化だ。
高齢化は長寿化だから、悪いことではない。問題は、なぜ少子化が進んだのかにある。
いちばんの問題は、生みたいと思っている人も生みにくい、劣悪な環境だろう。
国立社会保障・人口問題研究所による2015年の出生動向基本調査では、夫婦が理想とする「理想子ども数」は2.32人。これに対し、実際に生むつもりの「予定子ども数」は2.01人にとどまる。なぜ「理想」まで生もうとしないのか。その理由としてもっとも多くの人が挙げたのは、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」(56.3%、複数回答)だった。
内閣府が昨年実施した少子化社会対策に関する意識調査では、国や自治体の少子化対策のうち「質が十分でない」「量が十分でない」と思うのは、そのどちらも「待機児童の解消」(質52.9%、量42.8%、複数回答)が最多で、次が「教育費負担の軽減」(質43.4%、量38.6%)だった。
「お金がかかりすぎる」と感じる理由ははっきりしている。ほかの先進国に比べて教育に投じる公費が少なく、私費負担が多いのだ。経済協力開発機構(OECD)の「図表でみる教育 2018」によれば、日本では高等教育のための支出の68%が私費で賄われ、OECD平均の倍以上にのぼる。
待機児童は、なぜ解消できないのか。理由はいろいろ挙げられるけれど、要は「本気度」が足りないのだろう。何をおいてもとりくむと腹をくくれば、解消できないわけがない。この社会では「3歳までは母親の手で育てるべきだ」といった意識が根強い。だから心の底で納得できず、本腰が入らないのではないか。
社会としての支援を怠り、家族に自助を強いれば、子どもを生むのを諦める人が増える。日本の少子化は、「しかたがない」という諦めが積もり積もった結果のように思える。
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