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ネット活用の荒療治。中国でじわりと進む司法改革

裁判の一部始終を“ノーカット”で公開。「デタラメは許されない」の機運が……

姫田小夏 フリージャーナリスト

「あっぱれな裁判」

 「あの裁判はあっぱれでした」

 2016年に行われた裁判を振り返ってこう語るのは、一部上場企業の現地子会社A社を長期にわたって管理してきた篠田和夫さん(仮名)だ。いかなる裁判だったのだろうか?

 日本本社はもとより中国でも“精鋭”たちを集める現地法人だが、抱えてきた悩みのひとつに社員の勤怠管理があった。

 趙君(仮名)は、A社の厳しい選抜を潜り抜け、採用された。しかし、あるときから遅刻が増え始め、ふと気が付けば無断欠勤も頻繁に出てきた。上司は何度となく注意をするが、一向に改善が見込めない。結局、この現地子会社は就業規則に則って、勤務態度の悪さを理由に趙君を解雇した。

 しかし、趙君は黙っておらず、地方裁判所に異議を申し立てた。この手の労働争議は、地元の労働仲裁委員会が出した仲裁案に従うことで、だいたいのケースに決着がつくのが通例だが、趙君はその仲裁案にも首を縦には振ろうとはしなかった。

 裁判にもつれ込む。地方都市の裁判所で開かれた裁判、そこで焦点となったのは「解雇のやり方が正当だったのか」という点だった。

 原告である趙君は「企業事由による解雇は経済補償金(離職後の生活補償)の支払いの対象になる」と主張し、対するA社は「無断欠勤を忠告したが改善が見込まれなかったため正当に解雇した」と主張していた。すでに裁判官の手元には、労働契約書、就業規則、業務日誌、勤怠管理データが提出されている。そして、次のようなやり取りが展開された。

裁判官:あなた就業規則を読んでいるのですか?
原告:読んでいます。
裁判官:(企業側に対し)社員が就業規則を理解しているといえますか?
A社:就業規則の勉強会を行っています。日頃も社員はその都度、無断欠勤などないよう勤務態度には気をつけよと指導を行っています。
裁判官:(原告に対し)企業側のこの主張は本当ですか?
原告:本当です。

理性的な審理の進め方

拡大David Carillet/shutterstock.com
 「それは実に淡々とした質疑応答でした」と篠田さんは振り返る。

 裁判は、最終的に企業側の言い分が認められた形となった。しかし、趙君になおも上訴する可能性が見て取れたため、原告の要求する経済補償金の一部のみを企業側が支払うことで、スピード決着に持ち込まれた。中国での労働紛争は、労働者間の横の波及が会社の評判を落とす可能性もあり、深追いは禁物という暗黙律がある。

 一方で、この裁判に対し篠田さんは次のような感想を抱く。

 「企業がちゃんとルールを設けているか、それに基づいて社員教育をしっかり行っているか、裁判所はこれら事実をつかんだ上で、原告の元社員に対し『ルールを守らなかったあなたが悪い』ときっぱりと告げました。審理の詰め方は非常に理性的だといえます」

 中国駐在が長い篠田さんは、これまでの経験から「裁判を行っても、所詮中国側が勝つ」と信じ込んでいた。だが、この裁判を通して、中国で進む司法改革の一面をまざまざと見せつけられた。

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筆者

姫田小夏

姫田小夏(ひめだ・こなつ) フリージャーナリスト

東京都出身。アジア・ビズ・フォーラム主宰。上海財経大学公共経済管理学院・行政管理学修士(MPA)。中国ウォッチは25年超、うち約15年を上海で過ごす。1998年末に上海で、2002年には北京で、日本人向けビジネス情報誌を創刊し、10年にわたり同誌編集長を務める。2008年春に退任後、中国とアジアを追うフリージャーナリストとして活動を開始。2014年以降は東京を拠点に内外を現地取材、中国が遂げる変革の行方、インバウンドがもたらす日本の変化、アジアにおける中国の影響をローアングルで追っている。著書に『インバウンドの罠』(時事通信出版局)ほか、長期連載にダイヤモンドオンライン『チャイナレポート』など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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