争点なき参院選だからこそ、あらためて吟味してみたい各党の政治理念
2019年07月12日
参院選たけなわである。
毎年、この季節になると、私は1993年の「大政変」を思い出す。ことに国政選挙が施行されるとなると、思い出はいっそう生々しくなる。
この年の6月18日、野党が提出した宮沢喜一内閣への不信任案は、小沢一郎氏ら自民党の一部が同調して可決され、衆議院は解散された。
解散の直後、私は武村正義氏ら総勢10人で自民党を離党し、「新党・さきがけ」を結成した。前もって離党日を「宮沢内閣が終わる日」と決めていたのである。
その突発的な衆院選が始まると、1年前に細川護熙氏が旗揚げした日本新党、われわれ同様、解散後に自民党を離党した小沢一郎氏らが立ち上げた新生党、そして新党さきがけの3新党が、いわゆる「新党ブーム」を巻き起こした。そして迎えた7月18日の投開票日。自民党は過半数を割り、下野に追い込まれた。そして、この大きな政治転換によって、非自民勢力連立の細川護熙政権が誕生したのである。
振り返れば、あの時の衆院選の期間は、日本中の空がまるで異様なうなりを立てているような風情であった。歴史が大きく変わるときは、大地さえ揺るがす勢いに満ちるものだと実感したのを、今も鮮明に覚えている。それは有権者も同じで、今もなお「あの時の熱気は忘れない」と声をかけられる。
ところで、さきがけの結成に際し、われわれは五つの政治理念を掲げた。あらためて読み返してみると、今に通じる内容が含まれているように思う。今回はこの政治理念を振り返りつつ、今の政治状況について考えてみたい。
まず五つの政治理念を示す。
「われわれの政治理念」
① 私たちは日本国憲法を尊重する。憲法がわが国の平和と繁栄に寄与してきたことを高く評価するとともに、時代の要請に応じた見直しの努力を続け、憲法の理念の積極的な展開を図る。
② 私たちは、再び侵略戦争を繰り返さない固い決意を確認し、政治的軍事的大国主義を目指すことなく、世界の平和と繁栄に貢献する。
③ 地球環境は深刻な危機に直面している。私たちは美しい日本列島、美しい地球を将来世代に継承するため、内外政策の展開に当たっては、より積極的な役割を果たす。
④ 私たちはわが国の文化と伝統の拠り所である皇室を尊重するとともに、いかなる全体主義の進出も許さず、政治の抜本的改革を重視して健全な議会政治の確立を目指す。
⑤ 私たちは、新しい時代に臨んで、自立を責任を時代精神に据え、社会的公正が貫かれた質の高い実のある国家、『質実国家』を目指す。
さきがけがこの五項目の政治理念を発表するや、細川氏は直ちに「百パーセント共鳴する」とのメッセージを発し、さきがけと日本新党は一体となって総選挙に臨んだのだ。
このさきがけの五つの理念は今も話題になる。今年春の統一地方選挙でも、何人もの人がこの政治理念を高く掲げて戦っていた。新党さきがけは少数政党で、しかも短期間しか存在しなかった。にもかかわらず、掲げた理念は今も忘れられていない。1990年代以降、多くの政党ができては消え、理念はおろか名称もおぼろげななか、注目に値すると思う。
個々の理念について、もう少し深く見ていこう。
①は憲法観を述べたものだ。何も特別なことを言ってはいない。自民党の「保守本流」の憲法に対する基本姿勢と同じである。憲法の政府による解釈変更によって、集団的自衛権の行使を容認することはあり得ないことだ。
②は先の戦争に対する姿勢、歴史認識である。政治的軍事的大国主義を意図的に目指すようなことはしないと明確に宣言している。戦前の大国主義的国策を反省し、他国のいかなる大国主義・覇権主義にも反対する意思を表明している。
③では、地球環境問題が深刻化するなかで、環境政策にも重点的に取り組む決意を示した。90年代初めは、1992年に国連環境開発会議が初めて開かれるなど、地球環境問題が世界的にクローズアップされていた。「美しい環境と簡素な生活」もスローガンとなった。
④は当時もいろいろ話題になった。だが、起草した私の真意は、健全な保守勢力の結集のために必要な大枠は何かと考えた末のものであった。
昭和天皇は即位後、昭和という時代を「夫レ浮華ヲ斥ケテ質実ヲ尚ビ」と願ったが、ここで使われている「質実」と同義である。質の高い、実(じつ)のある国づくりを目指すという言うことだ。
当時わたしは、「背伸びをせず内容本意の自然体」とも説明している。細川さんは、大量生産、大量消費、大量廃棄の経済社会からの転換を切望していたが、やみくもな成長経済にかわる大まかな指針として、「質実国家」を使ったのである。
さきがけを旗揚げしたのは平成の初め。自民党の一党支配は爛熟期にあったが、新たな一歩を踏み出しきれない閉塞感が世の中に満ちていた。国際的には冷戦が終わり、米ソ2大国による支配にかわる新しい秩序を模索する時期であった。
それから四半世紀がたち、時代は平成から令和へとかわったが、
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