酒井吉廣(さかい・よしひろ) 中部大学経営情報学部教授
1985年日本銀行入行。金融市場調節、大手行の海外拠点考査を担当の後、信用機構室調査役。2000年より米国野村証券シニア・エグゼクティブ・アドバイザー、日本政策投資銀行シニアエコノミスト。この間、2000年より米国AEI研究員、2002年よりCSIS非常勤研究員、2012年より青山学院大学院経済研究科講師、中国清華大学高級研究員。日米中の企業の顧問等も務める。ニューヨーク大学MBA、ボストン大学犯罪学修士。
ニューヨーク、ロス、米国で拡大するAIを使った予測捜査。その実態、可能性と限界
3月24日の朝日新聞朝刊一面に「(シンギュラリティーにっぽん)プロローグ AIの判断 救いか災いか」が掲載された。ロサンゼルス(LA)市警がAIを使った予測捜査を開始したことへの賛否を読者に問いかける記事であった。5月7日の朝日新聞デジタルでは、「AIは天使か悪魔か 『間違えぬはず』妄信が招く分断」で更に詳しく掲載している。
1990年代までのLA市警は、サンディエゴ市警とともに住民の参加を含めた地域密着型の捜査を目指してきた警察で、機械的なルールの適用等で容赦ない捜査(ゼロトレランス)を指向したニューヨーク(NY)市警とは対極にあった。90年代後半のデータを見ると、双方ともに犯罪率を低下させる成果を見せており、犯罪学的にはどちらが真に有効な捜査なのか、甲乙付け難い状況であった(ただ、研究のための比較としてはダウンタウンの危ない地区を持つLA市ではなくサンディエゴ市が使われる事例の方が多かった)。
ちなみに日本では、NHKが2000年代に入った直後に住民の協力を得た地域捜査の代表例としてLA市警を特集したことがある。日本の複数の政治家は、ゼロトレランスは日本人の国民性には合わないと筆者に話してくれた。
AIを使うためには、捜査対象とする行為を、基本的に「ゼロ・サム」の発想で分類し、数値化したデータが必要である。犯罪が起きる前に地域住民全体の協力で問題を解消していくことや、大岡裁きのように加害者・被害者双方の心に訴えるということのような、人間の感情の動きに焦点を当てたやり方は(現在の科学のレベルでは)通じない。
全米では、LA市警以外にも、ニューヨーク(NY)、アトランタ、シアトルなど50以上の都市がAIを使った予測捜査を始めている。また、ロンドンや京都府警、神奈川県警、上海市警など、世界的にも導入が始まっているが、最も先端を走るのは、おそらく全米最大の警察職員を擁するNY市警であろう。
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