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AIを使った予測捜査で貴方は丸裸にされる?

ニューヨーク、ロス、米国で拡大するAIを使った予測捜査。その実態、可能性と限界

酒井吉廣 中部大学経営情報学部教授

「犯罪の街」から「安全な街」になったNY市

拡大Alexey Malashkevich/shutterstock.com
 NY市は、かつて犯罪の街として、地下鉄も落書きだらけ、夜は安心して外を歩けない、物騒な街であった。そこに、犯罪を嫌う弁護士のジュリアーニ市長と、データ分析・統計(コンプサット)を駆使して違法行為を取り締まる手法を指向するブラットン警察本部長が登場したのは1994年だった。

 ブラットン警察本部長は「壊れ窓理論」(壊れた窓が放置されるような人影の少ない場所では犯罪が増える)の持ち主で、犯罪に対する警察の積極的な関与を徹底した。窃盗、強盗、殺人、レイプから地下鉄の無賃乗車まで、すべてを容赦なく取り締まった。

 NY市の全77地区が報告する毎週の犯罪検挙件数は、「警官同士の競争」のようになったと当時、警官たちは言い合ったものだが、その結果、世界が注目するほど劇的な犯罪率の低下を達成し、「安全な街ニューヨーク」を実現した。

 興味深いのは、このブラットン本部長のもとで94年から始めたコンピュータへのデータ入力が、現在のAIを使った予測捜査に活かされている点だ。結果論ではあるが、いち早くデータを活かした捜査方法を導入したことが、AIを使った予測捜査の開始に結びついたかたちだ。

LA市警のゼロトレランスへの部分的な移行

 では、LA市警はなぜ、AI捜査の最前線に出てくるようになったのだろうか。読者の中には、ロス疑惑(夫人暗殺の嫌疑)で話題を集めた三浦和義氏の留置所内での自殺(2008年)をLA市警察本部長が記者会見で説明したシーンを覚えている人もいるだろう。実は彼こそが、前NY市警察本部長のブラットンであった。

拡大Aleksandr Tsybulskyy/shutterstock.com
 彼は2002年にLA市警察本部長に就任すると、彼の信じる捜査手法をLA市警にも導入した。これが、LA市警がAIを使った予測捜査を始める切掛けとなったのは間違いない。一時はサンディエゴ市とともに住民参加型の地域密着捜査を実施していたが、それについて警官の中にも「イリュージョンだった」と発言する人が現れ始めた矢先であった。

 例えば犯罪率の高いLA市の77番街地区などでは、制服を脱いだ黒人警官が職務質問を受けるといったことが発生していた。真に安全な都市へ変化するためには、警官の訓練、ガイドラインの設定、きめ細かな監督が適切に行われる必要に迫られていたのである。

 LA市警のトップとしての7年間、ブラットン本部長の辣腕(らつわん)ぶりはNY市警の時以上だったという。2000年代の景気拡大に伴って生活水準が向上するなか、LA市民の安全への要望が高まったこともあり、LA市警全体の統率は日に日に高まった。

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筆者

酒井吉廣

酒井吉廣(さかい・よしひろ) 中部大学経営情報学部教授

1985年日本銀行入行。金融市場調節、大手行の海外拠点考査を担当の後、信用機構室調査役。2000年より米国野村証券シニア・エグゼクティブ・アドバイザー、日本政策投資銀行シニアエコノミスト。この間、2000年より米国AEI研究員、2002年よりCSIS非常勤研究員、2012年より青山学院大学院経済研究科講師、中国清華大学高級研究員。日米中の企業の顧問等も務める。ニューヨーク大学MBA、ボストン大学犯罪学修士。

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