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AIを使った予測捜査で貴方は丸裸にされる?

ニューヨーク、ロス、米国で拡大するAIを使った予測捜査。その実態、可能性と限界

酒井吉廣 中部大学経営情報学部教授

AIとゼロトレランスを「是」とする考え方

 ところで、AIを使った予測捜査とはどういうものか?

 具体的には、逮捕歴、反社会的勢力との関係、保護観察歴、執行猶予歴、被職務質問歴と、将来の捜査に役立つと思われる事象のデータ(専門家はこれを「犯罪のビッグ・データ」と呼ぶ)をアルゴリズムで計算し、その結果を使うものである。LA市警の場合は33年間のデータを使っている。ちなみにNY市警では、1994年から「コンプスタット」のために進めたデータベース化を使って、予測捜査システム開発を全米で初めて実現できた。

 個人については、これを社会保障番号に紐づけして犯罪に備える。米国では、従前から、殺人犯やレイプ犯など重犯罪者に対して、彼らが転居する地域に前もってそのことを報告する制度がある。地域の安全確保が目的であるが、AIを使った予測捜査の発想はこの延長線上と考えることも可能だ。

 AIによる予測捜査は、こうした地域の特性も加味することができ、機械万能の発想、または人工知能が人間の知性を超える「シンギュラリティー」を信奉する発想の下では、犯罪発生の地域やパターンを予測して、犯罪防止の効果を上げるとともに、捜査時間や捜査に割く警官の数を縮小出来るメリットがある、ということになる。

AIとゼロトレランスを「否」とする考え方

 しかし、その一方で、仮にシンギュラリティーが完ぺきになるべきものであったとしても、現段階ではまだ完全ではなく、また、データの作成と入力には人間の意思・判断が介在するため、そこには越えがたい壁があるかもしれない。

 例えば、米国では、麻薬を吸ったことのある少年と、麻薬の売買に関与したことのある少年では、後者の方が遥かに厳しい罰を受けるが、それとてその少年を捕まえた警察官の届け出の仕方に左右される。一般に、麻薬を吸う少年は麻薬の売買も強制される場合が少なくないため、このような少年を救うのか、それとも厳しく罰するのか、というのは、法制度だけでなく、担当する警官の信条や容疑者への思いのようなものに左右されるからだ。

 くわえて、それは危険とされた地域での発生か、安全とされた地域での発生かで、警官の扱いが違うとの報告もある。

 ところが、一度データ入力されてしまえば(つまり、例えば、麻薬吸引だけなら5点、売買なら20点という風に)、その結果は、その少年の将来を大きく左右する。

 未成年時の記録については、警官でさえ、犯罪歴を調べるために正当な理由と判事の許可を必要とする等の大変面倒なプロセスが必要だ。そのため、AIで点数化され、総合点を(悪い方に)押し上げると、具体例にアクセスできないまま、警官の意思の有無とは無関係にバイアスがかかるリスクがある。

 犯罪予防とは別に、米国が目指している総犯罪件数引下げのためのもう一つの柱「犯罪者の更生への支援」という観点でみても、懸念は残る。

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筆者

酒井吉廣

酒井吉廣(さかい・よしひろ) 中部大学経営情報学部教授

1985年日本銀行入行。金融市場調節、大手行の海外拠点考査を担当の後、信用機構室調査役。2000年より米国野村証券シニア・エグゼクティブ・アドバイザー、日本政策投資銀行シニアエコノミスト。この間、2000年より米国AEI研究員、2002年よりCSIS非常勤研究員、2012年より青山学院大学院経済研究科講師、中国清華大学高級研究員。日米中の企業の顧問等も務める。ニューヨーク大学MBA、ボストン大学犯罪学修士。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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