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「2千万円不足問題」は「フェイクな争点」である

「福祉国家」の根本に関わる問題。政党はこれを一度の選挙の争点ですませるな

吉田徹 北海道大学教授

年金問題がクローズアップされた経緯

 まず、年金問題がクローズアップされた経緯を確認しておこう。「2000万円問題」が注目されたのは、金融庁の「金融審議会 市場ワーキング・グループ」の報告書「高齢社会における資産形成・管理」で「夫 65 歳以上、妻 60 歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ 20~30 年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で 1300 万円~2000 万円になる」(同21頁)とされたことに端を発する。

拡大「老後2千万円不足」問題についての野党合同ヒアリングで、金融庁や厚生労働省の担当者に質問する野党議員ら=2019年6月13日、国会内
 報告書の前提となっているのは、2015年時点の人口構成に従えば、国民の約25%が95歳まで生きるとことが想定した場合、同額が不足するというものだ(もっとも、報告書では続けて「この金額はあくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる」としている)。

 ただし、同様の試算は、金融庁のみならず、例えば朝日新聞社が2019年1月に発行した「AERA with Money」という資産形成特集でも取り上げられている。労働力が減少し、65歳以上の高齢者のいる夫婦世帯は、1980年の16%から2017年には32%へと倍増、高齢者が2030年に32%、2060年には40%となることが予測される中で、年金給付額の増大には限界があり、これに長寿化が加われば、減少傾向にある退職給付金ならびに年金生活には困難が伴うことは、いわば常識の類に属する。

人為的に作られた争点

 すでに社会保障給付はGDPの23%占め(2016年度予算ベース)、年金はその約半分を占めている。年金給付のシェアは1980年に4割程度だったが今後、年金給付額が増え続けていくことを考えれば、財源不足に陥るのは当然だ。

 ただし、「2000万円不足」という文言が一人歩きしたこともあって、メディアは「100年安心年金」という、小泉政権時代のキャッチフレーズを逆手に、公約違反であるとのニュアンスを含めて報道し、これが有権者の不安を煽(あお)ることになった。金融庁の報告書は年金制度の持続可能性を議論しているわけではない一方、年金だけに頼って生活することが難しいことは多くの人が知っている。

 つまり、年金問題は人為的に作られた争点でもあった。

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