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「親米自立」を模索するEUのグローバル戦略 上

同盟の中の「自立」と「見識」

渡邊啓貴 帝京大学教授(ヨーロッパ政治外交、国際関係論) 

ヨーロッパの主体的行動の稼働

 こうした日本の対応の一方で、EUは逆にトランプ大統領の言動に対して自立を強める方向を模索している。

 実は日本ではあまり取り上げられなかったが、2016年秋にトランプ大統領の当選が明らかになってきたころから、ヨーロッパ=EUは独自の戦略と防衛上の自立をとりわけ声高に提唱するようになった。トランプ候補が欧州の加盟国が軍事費をGDPの2%にまで引き上げない限り、アメリカはNATOから撤退する、と主張したからだ(拙稿「トランプショックに揺れるヨーロッパ:「極右」からは喝采」『フォーサイト』2016年11月15日)。

 すぐさまメルケル独首相は「どこまでヨーロッパが自らの手で運命を切り開けるか、そして切り開くべきか」と防衛上の積極性と主体性を強調した。欧州の主体的防衛は翌年2017年5月に就任したマクロン仏大統領も提唱してきたことでもあった。その年の末EU外相会議では「欧州防衛協力常設枠組み(PESCO)」、つまりEU統合軍の設立が決定した。

 ドイツそしてヨーロッパ自身の防衛政策の発展と安全保障面での国際的影響がこれまで以上に真剣に議論されるようになったが、そうした議論は欧州の戦略的自立、特にフランスではヨーロッパの国際的主権の回復と呼ばれる論争にまで発展している。ドイツではとりわけヨーロッパの自立志向への積極姿勢は顕著だ。ヨーロッパの戦略的自立はドイツの国益そのものともいえるからだ。

 それは後述するような 『2016 EU外交安全保障グローバル戦略』という新たなEUの戦略文書に認められるが、そもそもヨーロッパの自立志向には長い歴史がある。

米欧同盟史の中の角逐――「自立」の模索

 実は、意外に思われる読者も多いかもしれないが、米欧同盟関係は常に安定していたわけではない。米欧大西洋同盟関係は「史上最も成功した同盟関係の例」としばしば呼ばれる。日米関係と比較し「安全保障共同体」と呼べるほど大西洋両岸は一枚岩的関係を続けてきたように考えている方も多い。

 もともと大戦時の連合国同士の同盟関係であるから、大西洋同盟の求心力はアジア太平洋のアメリカの同盟関係とは比較すべきもない。しかし冷戦時代、西欧諸国はアメリカの核の傘の下で安全保障上の恩恵を受けていたとはいえ、米欧関係はしばしば齟齬をきたしていた(その全体的な流れについては拙書『アメリとヨーロッパ』(中公新書、2018年)を参照)。「対立」と「協調」が併存する関係というのが実情だった。米欧関係の絆を保たせていたのは、世界秩序の共同管理者としての共通認識だった。それはデモクラシー・市場経済に代表される西側の価値観だった。

 詳述する余裕はないが、いくつか例を挙げてみよう。ノルマンディー上陸作戦は米国軍主体の大作戦だったが、英仏ソ連合国からすると、もっと早く行われていれば犠牲者の数は少なかったはずだという見方もある。戦時中ルーズベルト大統領と事あるごとに意見が対立していたドゴールが後に米国に対する不信感を理由に、NATOの軍事機構から離脱し、対米自立を標榜したことはつとに知られている(その自立の真意については後述)。

 日本と似たような境遇にあったドイツの例として、

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筆者

渡邊啓貴

渡邊啓貴(わたなべ・ひろたか) 帝京大学教授(ヨーロッパ政治外交、国際関係論) 

1954年生。東京外国語大学卒業、慶応義塾大学・パリ第1大学大学院博士課程修了、高等研究大学院客員教授(パリ)、リヨン高等師範大学校、ジョージ・ワシントン大学シグール研究センター客員教授、在仏日本国大使館公使、雑誌『外交』『Cahiers du Japon』編集委員長などをへて現職。『ミッテラン時代のフランス』芦書房、『ポスト帝国』駿河台出版、『米欧同盟の協調と対立』有斐閣、『フランスの文化外交戦略に学ぶ』大修館、『シャルル・ドゴール』慶応大学出版会、『現代フランス』岩波書店など。

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