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「親米自立」を模索するEUのグローバル戦略 下

「自立」と「同盟」は矛盾しない――問われる「外交見識」

渡邊啓貴 帝京大学教授、東京外国語大学名誉教授(ヨーロッパ政治外交、国際関係論) 

「欧州防衛協力常設枠組み(PESCO)」設立の背景、欧州の不安

 PESCO設立の背景には一言で言って欧州を取り巻く不安な国際環境がある。まずヨーロッパの軍事的非力と脆弱さである。冷戦後、旧ユーゴスラヴィア紛争、とりわけコソボ紛争や英仏のリビア空爆、マリへの侵攻などはヨーロッパ単独での対応には限界があった。ロシアのウクライナへの軍事的関与やクリミア半島の占領に対してヨーロッパは無力を露呈した。あまつさえ、イギリスのブレグジットや仏大統領選挙の際にロシアからの直接間接的介入があったことは、ロシアの脅威を印象付けた。とりわけウクライナでの「ハイブリッド戦術(サイバー攻撃を含む多様な攪乱戦法)」やフェイクニュースの操作などはヨーロッパに大きな危機感を与えている。

 第二に、トランプ政権の誕生である。選挙キャンペーン中からNATOの予算負担の不均衡を指摘、ヨーロッパ同盟国の負担強化(国内総生産の2%以上の予算貢献)を提唱し、それが実現しなければアメリカはヨーロッパ防衛から撤退すると主張していたからである。

 2017年末のPESCO創設の急速な合意の背景には、同年5月のNATO首脳会議でトランプ大統領が欧州加盟国に対して軍事支出の増額を強く迫ったことに対する反発があったという指摘もある。16年トランプ大統領誕生が決定した直後、EU首脳会議でメルケルは、欧州防衛の強化とそのためのドイツの役割の大きさを強調した。表向きにはウクライナ紛争に見られるロシアの脅威が強調されるするが、個人的にはプーチンとの相性が良いこともトランプ政権への不信感を醸成している。

 そして第三に、イギリスのEU離脱が欧州の軍事的自立を加速化させた。常設軍設立に消極的だが、軍事的にヨーロッパの強国であり、防衛協力には不可欠なイギリスの離脱はEUにとって戦力の大きな後退を意味するからである。共通防衛政策の発展は喫緊事項となったのだ。

「親米自立」――EUのグローバル戦略

 しかしEUの安全保障・防衛戦略といっても、それは戦争のための軍事戦略を意味するわけではない。冷戦後国連が打ち出してきた一連の紛争予防と平和復興のための文民活動を含む広範な活動を指している。一口で言えば、総合的な危機管理能力だ。自衛隊の活動の多くの部分がそれには重なっている。

 共通防衛政策の理念ともいうべき「EU戦略」は「9.11テロ」をきっかけに大きく発展した。テロに対する危機感が世界中で増幅される中で、2003年末のEU首脳会議で、ソラナ・共通外交安全保障政策上級代表は『より善い世界における安全なヨーロッパ----ヨーロッパ安全保障戦略〔ソラナ報告〕』を発表した。EUはある程度の軍装備を擁しつつ、その機能としては平和維持や復興支援に重きを置いたスタンスを模索し始めたのである。

 この報告はEUが発表した初めての独自の安全保障戦略だった。ソラナは、EUが「世界における戦略的なパートナー」の役割を果たすと同時に、多国間協力を重視し、ブッシュ政権の単独主義を拒否した。そしてグローバルな脅威に備えて、「予防(プリベンティブ)外交」を強調した。予防措置は情報、警察、法律、軍事、その他のさまざまな分野にまで及び、そのうえ「早期の迅速な、そして必要な場合には強硬な介入を育成していく《戦略文化》を発達させる」と説き、ヨーロッパの安全保障面での国際貢献を喚起しようとしたのである。

 その後2004年9月に発表されたEUの「人間の安全保障」ドクトリンではさらに新たな方向性が示された。それは

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筆者

渡邊啓貴

渡邊啓貴(わたなべ・ひろたか) 帝京大学教授、東京外国語大学名誉教授(ヨーロッパ政治外交、国際関係論) 

1954年生。東京外国語大学卒業、慶応義塾大学・パリ第1大学大学院博士課程修了、高等研究大学院客員教授(パリ)、リヨン高等師範大学校、ジョージ・ワシントン大学シグール研究センター客員教授、在仏日本国大使館公使、雑誌『外交』『Cahiers du Japon』編集委員長などをへて現職。『ミッテラン時代のフランス』芦書房、『ポスト帝国』駿河台出版、『米欧同盟の協調と対立』有斐閣、『フランスの文化外交戦略に学ぶ』大修館、『シャルル・ドゴール』慶応大学出版会、『現代フランス』岩波書店、『アメリカとヨーロッパ』中央公論新書、『フランスと世界』法律文化社など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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