「議会を包囲する民主主義」と超管理社会の相克
2019年07月19日
香港の十万、百万人単位の市民デモは、1989年の北京の天安門事件に呼応した運動を除けば、2003年の50万人デモが、その嚆矢といえる。
春にSARSの疫禍があった年の、香港特区設立記念日の7月1日に、多くの市民が香港基本法23条(注)に基づく国家安全条例制定に反対し、香港政府ではこの立法化を強引に進めていた保安局長が退官。行政長官・董建華が同年9月にこの条例草案を「撤回」した。同年11月の区議会統一選挙では、この条例化に賛成していた親中派の民建聯が惨敗し党首が責任をとり辞任、董行政長官も2005年に任期を2年残し健康上の理由で辞任に至るきっかけが、この50万人デモだった。
(注) 第23条 香港特別行政区は国に対する謀反、国家を分裂させる行為、反乱を扇動する行為、中央人民政府の転覆、国家機密窃取のいかなる行為も禁止し、外国の政治組織・団体が香港特別行政区内で政治活動を行うことを禁止し、香港特別行政区の政治組織・団体が外国の政治組織・団体と関係を持つことを禁止する法律を自ら制定しなければならない。
それ以降、香港での大型市民デモは恒例となるが、2003年の50万人デモが最大規模で、語り草となっていた。それが今年の6月、逃亡犯条例改正反対で100万人規模といわれる市民デモが9日と16日に実行され、香港政府はこの条例改正を事実上、廃案決定するところまで追い込まれた。
この逃亡犯条例改正反対の世論の中で「これに比べたら基本法23条の国家安全条例の方がまだマシ」という見方が聞かれた。2003年にあれだけ大反対した国家安全条例だったが、国家転覆を企図した行為等がこの条例で禁止されるが、少なくとも「司法権は香港にある」だけでもマシだというわけだ。法治社会である香港で、悪法も法なりで法に基づき検挙され裁判にかけられるのであるから、弁護士をつけるなり世論に訴えるなり上訴等の手段がある。
それに対して、逃亡犯条例改正は中国政府が香港市民、香港の外国人も非法行為があれば、それを検挙でき身柄は中国の公安当局に拘束され政府に絶対的有利な司法がそれを裁くのだから、確かにこちらの方がずっと怖い。
今回、香港政府は条例改正を事実上断念したことで、市民の不安は解消されたとまではいえないが、この条例が現実化することは先送りされ一先ず安堵であろう。
この香港の政治がどう動くのか、は全くの未知数であるが今後の視点として、ここで「議会を包囲する民主主義」と、次なる不安としての「社会信用システム」について言及しておきたい。
香港は行政長官の選出も普通選挙が実施されず、中国政府寄りの人物が親中派を多数とする選挙人選挙で選ばれる。そればかりか、
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