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韓国への輸出規制は「徴用工問題」を解決しない

登 誠一郎 社団法人 安保政策研究会理事、元内閣外政審議室長

拡大韓国のチョン・チャンス産業通商資源部貿易安保課長(手前右)への説明に臨む経済産業省の岩松潤・貿易経済協力局貿易管理部貿易管理課長(手前左)=2019年7月12日、東京・霞が関の経産省

1.今回の措置の真の目的は明らか

 政府が7月1日に公表した韓国向けの輸出管理強化措置は、いわゆる「徴用工問題」に関する韓国の理不尽な対応の修正を促す目的で取られたことは、いくら日本政府がその関連を否定しても、明々白々である。

 確かに経済産業省のプレスリリースは「日韓間の信頼が著しく損なわれた」ことが措置の理由と述べているだけで、信頼が損なわれた原因には言及していない。しかし、本件に関する国内および海外のメディアのほとんどが、この措置は「徴用工問題への報復」と報道した。

 これに関して、3日に世耕経産大臣が、わざわざマスコミの理解を深めるためとしてツイッターで行った説明の中で、「旧朝鮮半島出身労働者問題について、G20までに満足する解決策が示されず、信頼関係が著しく損なわれたと言わざるを得ない」と明記した。ここに本音が出ていると言わざるを得ない。

 その後、政府は一貫して、本件措置はいわゆる「徴用工問題」とは全く関係がなく、輸出管理に関して安全保障上の理由による例外としてWTO協定上も認められているものであり、何ら問題はないと説明している。

 もし韓国が本件措置をWTOに提訴した場合、純粋に法的解釈からは、輸出管理の強化そのものについては日本の主張が認められる可能性は多分にある。

 しかし、それにより、日本政府が真に目的とするところが達成するのであろうか?

2.日本の措置が認められれば、韓国は輸出管理を強化するだけ

 今回の日本側の問題提起により、もし韓国の輸出管理の実態が抜本的に改善されるとしたら、それはそれとして望ましいことである。

 しかしながら、日本が現在、韓国にもっとも望んでいることは、そのようなことではなく、日韓間の信頼関係を決定的に揺るがす原因となっている「徴用工問題」について、韓国が適切な対応を示してくれることではなかろうか。

 この観点から考えると、遺憾ながら、今回の日本政府の取った措置は意味のあるものとは言い難い。

 すなわち、日本側が輸出管理の強化は「徴用工問題」とは一切無関係と主張すれば主張するほど、措置の妥当性がWTOなどによりどう判断されても、それに応じて韓国が取る対応は、自国の輸出管理面における対応にしかならないのである。


筆者

登 誠一郎

登 誠一郎(のぼる・せいいちろう) 社団法人 安保政策研究会理事、元内閣外政審議室長

兵庫県出身。東京大学法学部卒業後、外務省入省(1965)、駐米公使(1990)、ロサンジェルス総領事(1994)、外務省中近東アフリカ局長(1996)、内閣外政審議室長(1998)、ジュネーブ軍縮大使(2000)、OECD大使(2002)を歴任後、2005年に退官。以後、インバウンド分野にて活動。日本政府観光局理事を経て、現在、日本コングレス・コンベンション・ビューロー副会長、安保政策研究会理事。外交問題および観光分野に関して、朝日新聞「私の視点」、毎日新聞「発言」その他複数のメディアに掲載された論評多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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