メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

ドイツ・ブレーメンが占う今後のEUの動向

花田吉隆 元防衛大学校教授

 5月26日、ドイツ・ブレーメン州で行われた州議会選挙を受け、関係各党間で続けられてきた連立交渉が7月初め、とうとうまとまった。7月4日に左派党が、6日に社会民主党(SPD)と緑の党が、それぞれ州党大会で連立協定を承認した。左翼陣営3党による連立政権の誕生だ。たかがドイツの一地方政府の話と思うなかれ、実はこれがドイツ政治の今後を占う重要な試金石だった。影響はドイツを越え、EU、世界にも及びかねない。一体、ブレーメンの連立がどうしてそれほどの重要性を持つのか。

連邦議会選の前哨戦

 実は、ブレーメン州選挙は、今年中にもあるのではないかと噂される連邦議会選挙の前哨戦だ。今回成立したブレーメン州左翼3党による、いわゆる「赤緑赤連立」は、連邦レベルの「赤緑赤連立」に向けた布石に他ならない。

 各種世論調査によれば、現在、この3党支持率の合計は大体46%あたりだ。対する第一党、キリスト教民主社会連合(CDU/CSU)の支持率は今のところ26%程度であり、CDU/CSUが政権を取るには、左翼3党を上回る得票率になるよう連立相手を探さなければならない。

ドイツ政治のキャスティングボートを握る緑の党

支持率の高まりを受けて盛り上がる「緑の党」の選挙集会=2018年10月11日、ミュンヘン

 連邦議会選挙が今年中にもあるとすれば、それはSPDが今の大連立から離脱することを意味するから、SPDが選挙後、改めてCDU/CSUと組むことは考えにくい。他方、CDU/CSUと自由党(FDP)だけでは到底過半数には達しない。つまり、CDU/CSUにとり唯一可能性があるのは、緑の党との2党連立、または、これにFDPを加えた3党連立だ。つまり、今のドイツ政治では緑の党がキャスティングボートを握っている。

 緑の党はこれまで10%を少し超えるくらいの小政党だったが、昨年夏ごろから急速に支持を伸ばし、とうとうSPDを抜いて第二党に躍り出た。この緑の党が「中道右派のCDU/CSU」側につくか、あるいは、「左翼陣営3党の連立」に参加するかが今後のドイツ政治の分かれ目になる。ブレーメンが示したのは後者、すなわち「左翼陣営3党による連立」の可能性だ。

 実は、1990年の再統一後、ドイツでは、数の上では、左翼陣営の得票率合計が常に優位を保っていた。1994年の選挙では左右両陣営の得票率合計はほぼ拮抗していたものの、その後、1998年から2005年選挙までの間、左翼陣営の得票率合計が常に過半数を占める。2005年の選挙で、SPDはCDU/CSUに僅差で敗れ、大連立に加わりながら首相ポストをメルケル氏に譲ったが、この時ですら、左翼陣営の得票率合計は51.0%と過半数を占めていた。

 こういう状況を当時シュピーゲル誌は「赤いドイツ」と呼び、ドイツの「左優位の時代」をジャーナリスティックに表現した。こうなったのは他でもない、再統一で旧東ドイツを取り込んだからだ。ところが、2005年、この左翼陣営が3党連立を組み政権を取るということはなかった。何故か。それは左派党の由来に起因する。

SPDと左派党の反目

 SPDの党内左派が分離独立してできたWASGと旧東独の流れをくむ民主社会党(PDS)は、2005年に合流し左派党を結成する。WASGは、SPDがシュレーダー首相の下、右寄りの傾向を強めるに従い、SPD左派が不満を募らせ大挙離党して結成したものだ。離党は路線対立が主な要因だったが、SPD内の人的軋轢も大きかった。出来上がった左派党にはPDSの前身、社会主義統一党(SED)の出身者等、共産主義者も多く入っており、人々はこれを極左政党とみた。こういう経緯があって独立した左派党は、SPD左派の支持票を取り込み成長していったが、それに伴い、逆に支持票を奪われたSPDは衰退していく。それがまた、SPD内に左派党に対する怨嗟を生むとの悪循環が繰り返されてきた。これまでSPDと左派党が組むことは到底考えられなかったのだ。

 SPDと左派党の反目は長く続く。しかし、左派党成立から既に14年、幹部の代替わりも進み、さしもの人的軋轢も少しずつ関係者の記憶から薄れていった。このところのSPDの地盤沈下は、いつまでもわだかまり云々(うんぬん)を言っていられる状況でないとの事情もでてきた。

注目されるブレーメンの連立

 それでも、左派党が極左、共産主義者の党との意識はドイツ政治の関係者間には依然根強く、これまで左派党は、旧東独地域はともかく旧西独地域で連立に参加することはなかった。これまで左派党が連立政権に加わったのは旧東独のブランデンブルク州、ベルリン州、チューリンゲン州の3州だけである。

 だからこそ、今回、ブレーメンの連立が注目される。ブレーメンが初めて旧西独地域としてそのハードルを乗り越えたからだ。ここに至り、ようやく人的軋轢の面でも、また、思想の面でも左派党に対するアレルギーが払拭された。ここまで来ればもうあと一歩だ。左派党がSPD、緑の党と組んで連邦レベルで連立に参加することも不可能でない。

 しかし、ハードルが乗り越えられたからといって、直ちに、左翼陣営3党の連立が連邦レベルで成立するとは限らない。緑の党はキャスティングボートを握る立場にあり、どちらの側につくことも可能だ。「CDU/CSUとの連立」は緑の党にとり、常に一つの選択肢である。実際、2017年の総選挙後の連立交渉で、緑の党は「CDU/CSU、FDPとの3党連立」に前向きだった。この時はFDPが参加を拒み連立は頓挫したが、次の総選挙で「CDU/CSUとの2党連立」または「FDPも入れた3党連立」を選択する可能性は依然残る。現在、世論調査で、緑の党とCDU/CSUは拮抗しており、緑の党が「中道右派のCDU/CSU側」と「左翼陣営3党の連立」のどちらを選ぶかは、今後の支持率如何だ。緑の党とすれば首相ポストを取れる方を選ぶに違いない。

 もし仮に、CDU/CSUが緑の党を上回る得票を上げるなら、

・・・ログインして読む
(残り:約2641文字/本文:約5124文字)