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[145]原告と被告の3~4メートルという距離

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

JR南鹿児島駅のすぐ裏で起きた土砂崩れ=2019年7月3日午後2時46分、鹿児島市JR南鹿児島駅のすぐ裏で起きた土砂崩れ=2019年7月3日、鹿児島市

7月2日(火) 朝、10時発の便で鹿児島空港へと向かう。羽田で、鹿児島空港付近に霧が発生しており、引き返すこともあるという条件付き飛行となることを告げられた。何とか鹿児島に着陸、そこでKディレクターらと合流。雨足はその時はいくぶん弱まっていたが、昨夜はひどかったらしい。「サンデー毎日」用の原稿をメールで送る。

 とりあえずは、雨が集中的に降ったいちき串木野市方面へと移動。断続的に雨が降っているが、昨日の夜がひどかったという。二級河川の大里川の堤防決壊箇所や、避難を考えている人などを取材。住民の方々は取材にとても協力的だった。本当にありがたいことだ。こちらは東京くんだりから駆けつけたよそ者なのに。

大里川(右)が増水して一部が崩落した道路=2019年7月1日、鹿児島県いちき串木野市大里川(右)が増水して一部が崩落した道路=鹿児島県いちき串木野市

 鹿児島県のマスコミでは南日本放送(MBC)が、防災情報では地元住民から格段の信頼を得ている。それもこれも、「8・6水害」(1993年)を身を挺するように放送を出し続けたことを県民が知っているからだ。東京の気象庁は「命をまもる行動を」などと呼びかけているが、東京のお役所言葉よりも、地元住民の生活実感の方を僕は信じている。戦時中の空襲警報のように住民が一斉避難とはなかなかならない現実がある。年配の方々は特にそのような実体験を信じている。なかなか避難しない。あしたのことを考えて今夜は薩摩川内市内に宿泊することにする。

 ハガティ駐日米大使、トランプ大統領が日米安保条約に不満なのは「同盟国の支出が少ないこと」に対してだとか。この人物は何もわかっていない。特に日米安保条約の日本側の負担が同盟国の中でも異様に突出して多いことの知識または情報がないのだ。トランプと金正恩の板門店ランデブーについて、「Democracy Now!」のトークをみたが、はるかに質の高い論議を展開していた。

7月3日(水) 朝から県内の各所に土砂災害警戒警報発令。避難指示が出される。鹿児島市内は、今日は幼稚園・小学校・中学校が休校。薩摩川内市から鹿児島市内に移動。九州新幹線の混乱や鹿児島市内の被害地域などを取材して回る。途中、「news23」の村瀬健介キャスターらの取材チームと出くわす。酷く強い雨だ。甲突川の水位もかなり上がっている。鹿児島市内の27万5000世帯余、59万4000人あまりを対象に避難指示。

避難所の体育館で一夜を過ごす人たち=2019年7月3日午後7時47分、鹿児島市20190703避難所の体育館で=2019年7月3日、鹿児島市

 避難所の取材の後、鹿児島市の危機管理課に取材。ちょうど2回目の災害対策本部会議が開かれていた。その後、ブリーフィング。その時点で1422人が実際に避難していた。この数字をどうみるかだ。危機管理課長は、ざっくばらんな感じの人物で取材しやすかった。

 鹿児島市内は午後3時の段階で多くの店舗が店を閉め、僕らも夕食をとることままならず。コンビニのおにぎりやパンはとっくに売り切れていた。ようやく確保したビジネスホテルの食堂もあと30分で閉店ということで駆け込み注文して何でも腹に入れた。それにしてもずうっと雨のなかにいると、からだが自然に冷えてくる。夏風邪を引いたようなので、若干アルコールは控える。雨の取材のために、今日約束をしていたレバノン人の映画監督ナディーン・ラバキーさん(映画『存在のない子供たち』の監督)へのインタビューは代わりの人にやってもらうことになった。残念。この映画は実に衝撃的だ。

子どもの尊厳が大人によって奪われている時代

7月4日(木) 朝起きてみると、雨はあがっていた。朝から鹿児島市内の被災箇所の取材。住宅地に近接した2か所を回る。なぜかJNN系列の取材チームとばかり出くわす。香港の立法会占拠で、香港警察が14歳の少年を含む28人を逮捕との情報。沖縄のマンゴーの注文。雑誌「クレスコ」の原稿をメールで送る。香港の大規模デモにいかに中学生たちが多く参加していたのかについて。14時40分発の鹿児島空港発の便で東京に戻る。考えてみれば、今日は参議院議員選挙の公示日だった。

7月5日(金) 何だか体の調子が悪い。夏風邪か。でもストレス解消のためにプールへ行く。いつもの半分だけ泳いだ。僕は外に出張取材に行くたびに太る。めしを食いすぎるのだ。

映画『存在のない子供たち』映画『存在のない子供たち』=公式サイトより

 午後4時、きのう会えなかったナディーン・ラバキー監督のユネスコでの映画上映とアフタートークがあるというので出かける。期待していたが、何だかちょっとがっかりした。ひとつは、監督の家族が全員(夫と2人のこども)登壇したので、話をまともに聞く状態ではなくなったことだ。どうして主催者はそれを許すんだろうか。ユネスコが主催ということは、映画のプロモーションだけではない意味あいを持つのだと勝手に思っていた僕がバカだったということ。いつも思うのだが、ユネスコの組織の人が直接きちんと関わって、司会や内容進行をつとめるべきではないのか。トーク終了のあとエレベーターに乗り込むラバキー監督に「日本で一番影響を受けた映画監督は?」と聞いたら

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