ハリー王子とメーガン妃を例に、王室と国民・メディアの距離を考える
2019年07月25日
イギリスのエリザベス女王の孫にあたるヘンリー王子(通称、ハリー)は昨年、アメリカの女優メーガン・マークルさんと結婚し、一躍注目度を高めた。きらびやかな結婚式には米スター、ジョージ・クルーニー夫妻やテニスのセリーナ・ウィリアムズ選手らが出席し、ハリー王子は「世界のセレブリティー(著名人)」の一人となった。
イギリス国民としては鼻高々のはずだが、国民に開かれていることを基本とする王室の伝統にあらがい、「プライバシー」の名の下に出すべき情報を出さないハリー夫妻(サセックス公夫妻)に眉をひそめる声も出てきた。
日曜紙「サンデー・タイムズ」のコラムニスト、カミーラ・ロング氏は王室ファンに十分な情報を出さない王子を「しらけさせる殿下(HRH Killjoy)」と名付けた(7月7日付)。
一体、何が起きているのか。
ハリー王子の母親は故・ダイアナ妃(1961−1997年)だ。
彼女は、チャールズ皇太子との婚約が発表された時点からメディアに追いかけられた。結婚中は、夫に愛人(カミーラ夫人)がいることをBBCの番組や書籍で明らかにし、自らを熾烈なメディア報道の渦中に置いた。離婚後、パリ滞在中に恋人と乗った車を報道陣に追跡された揚げ句、交通事故で命を落としてしまった。享年36歳。
母が亡くなった時、ハリー王子は12歳。兄のウィリアム王子は15歳だった。ふたりがメディア嫌いになったとしても、不思議はない。
ハリー王子は、亡くなった母のこともあってメディアに好感を持たず、かつ王室の人間であること自体を負担に感じると、何度か口にしてきた。
メディア嫌い、あるいはメディアと一定の距離を保って付き合いたいという思いは、ウィリアム王子も共有する。
2013年、ウィリアム夫妻(ケンブリッジ公夫妻)に初の子どもジョージ王子が生まれたと、出産をした病院の玄関前で赤ちゃんを抱いて報道陣のカメラのフラッシュを浴びる場を持った。王位継承権第2位というポジションにいることもあって、「義務は果たす」のがウィリアム流だ。
しかし、その後、ジョージ王子やその後に生まれた2人の子ども(2015年シャーロット王女、2017年ルイ王子)の誕生記念の写真が王室から公開されると、多くのイギリス国民が驚いた。撮影したのは王室お抱えのカメラマンではなく、母親のキャサリン妃だったからだ。子どもがプライベートで見せる自然な笑顔を母親のカメラがとらえていた。
ケンブリッジ公夫妻のプライバシー重要視にさらに輪をかけたのが、サセックス公夫妻だ。
「許容できないレベル」というのは、メーガン妃の母親がアフリカ系アメリカ人で、このために人種差別的なコメントが多数出たのである。
2016年11月、ハリー王子はメディア向けに声明文を出し、「立ち止まって、考えてみる」ことを求めた。
ハリー王子とメーガン妃は、昨年5月、ウィンザー城で結婚式を挙げた。式の様子はテレビで生中継され、式後は、敷地内に招待された約1200人の一般市民に結婚を祝福された。「国民が愛する王室」をイギリスの国内外にアピールする絶好の機会となった。
しかし、ハリー王子とメーガン妃は結婚後、二つの重要なイベントで「極度にプライベートな道」を選択する。
まず、今年春、初めての子どもが生まれるのを前に、「出産をプライベートなものにしたい」と宣言し、出産場所を公表しなかった。出産予定日は4月末から5月上旬とされたものの、出産後すぐに情報を出すかどうかも明らかにしなかった。
ダイアナ妃、そして特にキャサリン妃の出産の場合とは大違いだった。
キャサリン妃の場合、ダイアナ妃と同様にロンドンのセント・メアリー病院で出産することが決まっており、報道陣や王室ファンが病院前に集まった。いよいよ出産となると、ウィリアム王子が一人であるいは先に生まれた子どもたちを連れて、病院にやってくる。病院の中に入るまでの様子をカメラが追う。
出産が終わって数時間後、完璧なヘアとメイクを施したキャサリン妃が生まれたばかりの子どもを腕に抱えて、ウィリアム王子と一緒に外に出てくる。カメラのフラッシュが次々とたかれ、ウィリアム王子とキャサリン妃が報道陣に向かって、つまりは国民に向かって腕を振る。病院前で長時間待っていたファンも大喜びだ。
これが「お決まり」の流れのはずだった。分娩室に報道陣のカメラは入っていかないものの、キャサリン妃の出産は国民全員が喜び、祝福する、公的イベントであった。ゆくゆくはこの子どもたちが国家元首になってゆくわけだから、誕生が国家的イベントになるのは当然とも言えた。
しかし、メーガン妃の場合はどこで出産するのかが不明のため、報道陣やファンはどこで待っていたらいいのか分からなくなった。
メディア関係者に焦燥感が募る中、5月6日、メーガン妃がアーチー王子を出産した。
しかし、これもドタバタだった。
この日午後2時ごろ、英王室は「今朝、メーガン妃の陣痛が始まった」とメディア向けに一斉メールを流した。ところが実際には、この日の早朝、すでに生まれていた。
メール送付から約40分後、インスタグラムのサセックス公の公式アカウントに、「男の子でした。6日の早朝に誕生」と書き込みがあったからだ。
さらに番狂わせが起きる。
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