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希望が感じられない参院選に漂うかつてない徒労感

課題設定がきちんと行われなかった選挙戦。不安を抱えながら漂う社会が続いていく……

三浦瑠麗 国際政治学者・山猫総合研究所代表

安保・憲法は安保・憲法だが

 このような日本政治の奇妙な安定は、政治が相も変わらず安保・憲法をめぐる分断を軸として展開しているからに他なりません。しかもそれは、「トランプさんの無体な要求にどう対処するか」「米中貿易戦争が覇権競争に発展するなかでどのような方策を取るか」といった具体的な議論ではなくて、漠然とした価値観の分断をめぐる対立です。

拡大xtock/shutterstock.com
 自衛隊を拡張していくのか、しないのか、憲法を改正するのか、しないのか、対米接近するのか、しないのか――。そういった大きな意味での、改憲派と護憲派、同盟に対する「見捨てられる恐怖」派と「巻き込まれる恐怖」派の意見対立は、政党選択を根底から規定する要素になっている。

 日本の有権者の投票行動を分析すると、他国のように所得階層によって政党支持を説明するのは難しい。私が主宰する山猫総研の調べによると、2017年衆院選の比例代表で、自民党と立憲民主党はいずれも幅広い所得階層から支持を得ていました。安保・憲法は価値観やイデオロギーなので、経済階層とはかかわりがないのです。

 安保や憲法の問題は、選挙のたびに正面から争点として打ち出されはしません。しかし、安保や憲法が選挙で重要な論点でないのかと言うとそうではない。無党派層がどのようにして投票する政党を選んでいるかを見れば、違いが際立つのはやはり安保・憲法だからです。

 すなわち、他の政策よりも政党支持や投票行動を左右しやすいのが、安保・憲法に対する考え方なのです。具体的には、安保法制、同盟強化の必要性などに賛成と答える人ほど、自民党に投票する傾向にあります。このいわば安保リアリスト派が優勢である限りは、政府与党の優勢は揺らぎません。

 これまでいくつかの選挙で、野党が安保・憲法をあえて持ち出さず、他の争点で投票してもらおうと試みたことがありました。それは、自民党を割った小沢一郎が1993年衆院選でとった戦略であり、2009年衆院選では民主党が「政権交代」そのものを争点にして勝利をおさめました。かつてのみんなの党、日本維新の会も、国内問題である構造改革を掲げて支持を獲得、躍進しました。

拡大落選が決まった後、記者会見するれいわ新選組の山本太郎代表=2019年7月22日未明、東京都千代田区
 余談ながら、今回の選挙では、「れいわ新選組」がそうした試みを極めて戦略的に行っています。山本太郎氏は不思議なほど安保・憲法について語っておらず、質問に応える形でツイート紹介している公式HPにおいても、安保現実路線をとったかつての改憲派による2012年自民党改憲草案への批判に類似した主張にとどめています。

 これは安保で戦わないことで、経済に対する不満票を幅広く取り込もうとする戦略として理解できますが、結果としては立憲民主党の票を食うにとどまったのではないでしょうか。安保を争点化しない経済階層に即した動員がどれだけの得票を得られたのか、今回の選挙結果をあらためて検討する必要があるでしょう。

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筆者

三浦瑠麗

三浦瑠麗(みうら・るり) 国際政治学者・山猫総合研究所代表

1980年神奈川県茅ケ崎市生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。専門は国際政治、比較政治。東京大学政策ビジョン研究センター講師などを経て現職。著書に『シビリアンの戦争―デモクラシーが攻撃的になるとき』(岩波書店)、『「トランプ時代」の新世界秩序』(潮新書)、『あなたに伝えたい政治の話』(文春新書)、『21世紀の戦争と平和 徴兵制はなぜ再び必要とされているのか』(新潮社)など。政治外交評論のブログ「山猫日記」を主宰。公式メールマガジン、三浦瑠麗の「自分で考えるための政治の話」をプレジデント社から発行中。共同通信「報道と読者」委員会第8期、9期委員、読売新聞読書委員。近著に『日本の分断―私たちの民主主義の未来について』(文春新書)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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