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田中均「選挙は終わった。外交戦略を見直す時だ」

泥沼化する日韓関係。米国が要求する有志連合。世論より国益を見た外交を

田中均 (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

拡大参院選投開票日の夜、テレビのインタビューに答える安倍晋三首相=2019年7月21日、東京・永田町の自民党本部

泥沼化した日韓関係

 参議院選挙が終わった今、日本の外交戦略を冷静に見直すべきだと思う。

 選挙前には選挙での勝利を意識して、世論を念頭に置いた行動をとりがちで、それが日本の国益に沿わない結果をもたらしてしまう場合も多い。

 特に韓国との関係については世論を巻き込んで泥沼に陥りつつある。本来、政治家は国民の負託を受け国家のためにあるべき姿を追求し、国民に説明をするという使命を持っているはずである。

 ところが最近では、世論を煽り、世論に乗っかって相手国に強い措置をとり、国民の拍手喝さいを浴びるが、外交には資さないと思われる場面に遭遇する。

 日本の外務大臣が駐日韓国大使を呼び出し、メディアの前で相手の説明を遮って「無礼だ」と叫ぶ姿を見て、とても悲しく思った。

 これは何のためにやっているのだろうかと思ってしまう。メディアに対し、外務省は弱腰ではなく相手に強く当たっている姿を見せるためなのか。

 しかし、大使は相手国を代表している訳で、これに尊敬の念を示すという最低限の礼儀も「怒り」の前に投げ捨てるという事か。

 慰安婦合意の一方的破棄や徴用工問題への取り組みに示された文在寅政権の行動は無責任きわまりないし、外務大臣の怒りも尤もなところがあろう。国内支持率の低下に歯止めをかけるため国民の反日感情に乗ったほか、日本には過去の歴史の原罪があり何をやっても許される、という甘えもあったのだろう。

 これに対する日本の行動も、もう韓国の政権の当事者能力の欠けた行動は許さないという強い意志が背景にある。

 先般取られた半導体材料への輸出管理厳格化措置も、日本政府は対抗措置ではないと言いつつも韓国側には対抗措置と映る。

 8月末には韓国を輸出管理法上のホワイト国から外し輸出手続きを厳格化することを検討中と伝えられる。さらには先の大法院判決に基づき差し押さえられている日本企業の財産が現金化された段階で日本側は新たな対抗措置をとるとも伝えられている。

 韓国側が始めたことであることはその通りで、韓国側が十分吟味された対応策を示すのは当然のことであるが、今日そういう方向には行きそうにないのは、双方に相手に対する信頼の喪失があるからだと思う。

 日韓両国は信頼の回復のためにそれぞれが何をなすべきか冷静に考えるべき時に来ているのではないか。

日韓両国は課題解決能力を示せ

 昨今の日本には、韓国の行動があまりに無責任なので、そもそも友好国とは認めないという意識があるように見受けられる。

 外務省の外交青書等の記述も価値を共有する重要な隣国という位置づけが今や単なる隣国に変わりつつある。

 政治・経済・安全保障面の実質的な両国関係は大きく変わった訳ではない。貿易面では双方は第三位の貿易パートナーであり、日本を訪れる韓国人観光客は全体の約25%に達する。

 安保面では北朝鮮への抑止力は米韓安保体制と日米安保体制があってこそだ。今後とも異なる体制の中国が台頭していく時、日韓の政治的協力は重要なはずだ。

 だとすれば、ここは日韓両国首脳の指示に基づき、今後、一方的行動は当面凍結する(この中には徴用工関連での差押えの現金化や輸出管理関連の措置を含む)としたうえで、両国政府間での包括的な協議を静かに行う事が必要となるのではないか。

 米国の仲立ちを待つまでもなく、日韓両国は課題解決能力があることを示さなければならない。

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筆者

田中均

田中均(たなか・ひとし) (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

1969年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官(96-98)、在サンフランシスコ日本国総領事(98-2000)、経済局長(00-01)、アジア大洋州局長(01-02)を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、2005年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、2010年10月に(株)日本総合研究所 国際戦略研究所理事長に就任。2006年4月より2018年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、2019年11月10日刊行予定)、『日本外交の挑戦』(角川新書、2015年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、2009年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、2009年)など。

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