2019年07月26日
第一幕は5月26日から28日まで続いた欧州議会選挙が終わってから。主役はマンフレッド・ヴェーバー欧州人民党(EPP)党首、刺客はエマニュエル・マクロン仏大統領。
欧州議会を構成する政党はややこしいが、EPPが中道右派、欧州社会・進歩同盟(S&D)が中道左派で、それぞれ第一党と第二党の地位にある。これまで、この二党で欧州議会を支配してきた。今回初めて両党の合計が過半数に達せず、欧州議会を通すには他政党の協力が必要となった。それが、マクロン大統領の属するリベラル会派「欧州再生」(旧ALDE)と緑の党だ。もう一つ、重要なのが「筆頭候補制度」で、各党は筆頭候補を立てて欧州議会選挙を戦う。EU委員長はこの筆頭候補から選ぶという制度だ。前回、2014年にユンケル委員長を選ぶ際、もめたためこの制度が創られた。この制度のミソは、有権者が選挙に際し、EU委員長候補を含め政党を選択するという点にある。EU委員会に民意が届かない、との批判にこたえたものである。
さて、この筆頭候補制度を前提にすれば、EU委員長はヴェーバー氏でなければならない。何せ、第一党EPPの筆頭候補だ。ところがこれにマクロン大統領が異論をはさむ。マクロン大統領は、自身がフランス大統領選挙で中道の二大政党を破って出てきた人物だ。今回、欧州議会選挙で、極右の国民連合に敗れはしたが、その差は僅少であり、同大統領として悪い戦いではなかった。何と言っても中道右派、中道左派の共和党と社会党を下すことができた。だから、EU委員長選びでも、二大政党のEPPやS&Dの候補は認めたくない。更に、ヴェーバー氏に閣僚経験がないというのも、マクロン大統領が問題視した点だった。EU委員長は各国首脳とやり合う重要なポストだ。閣僚も経験していないのでは役不足でないか、という。ヴェーバー氏はドイツ、キリスト教社会同盟(CSU)副党首ながら、専ら欧州議会を足場に活躍してきたドイツ中央政界とは無縁の人物だ。
無論、こういうマクロン大統領の横やりにメルケル首相は激しく反発する。理はメルケル首相の方にあった。何せ、委員長は筆頭候補の中から選ぶと決めてあるし、ヴェーバー氏は最大政党EPPの筆頭候補である。しかし、マクロン大統領が自説を曲げることはなかった。時間だけが経過し、独仏の対立が印象付けられていく。フランスの反対を押し切ってまでしてヴェーバー氏を委員長に据えたのでは今後の独仏協力にさわる。メルケル首相は、ヴェーバー氏を降ろすしかない、とハラを決めた。
かくて、刺客マクロン大統領は首尾よく主役ヴェーバー氏の刺殺に成功だ。マクロン大統領の粘り勝ちで第一幕が終わる。
第一幕後の幕間、大阪のG20サミット。
そこにメルケル首相、マクロン大統領、ペドロ・サンチェス、スペイン首相、マルク・ルッテ、オランダ首相が顔をそろえた。ユンケル委員長とドナルド・トゥスク欧州理事会議長もいる。幕間の配役としては十分すぎるほどだ。関係者が内々集まり善後策が話し合われた。ヴェーバー氏は降ろすこととして、では、誰が第二の主役になるか。第一党EPP筆頭候補に代わるのは、第二党S&Dの筆頭候補フランス・ティマーマンス氏しかいない。中道左派S&Dの筆頭候補は、マクロン大統領としては避けたいところだが、ヴェーバー氏を降ろし、ティマーマンス氏もというわけにはいかない。ティマーマンス氏は元オランダ外相だから経歴としては申し分ない。マクロン大統領を含め全員がティマーマンス氏で了承した。EUの中核国首脳が了解したことだ。これで事態は決着かと思われた。
そこで第二幕の開幕。6月30日、ブリュッセル。
大阪から取って返しての欧州理事会。出席者は疲労困憊で、早めにケリをつけたいと思っていたことだろう。ところがここに新たな刺客が現れる。ハンガリーのヴィクトル・オルバーン首相。
実は、オルバーン首相はヴェーバー氏がEU委員長になるのが気に入らなかった。オルバーン首相のFIDESZはEPPの一員ながら、反EU、反難民の姿勢が問題視され現在EPPの資格停止状態にある。EPP代表のヴェーバー氏とオルバーン首相は激しいさや当てを繰り返してきた。こういうヴェーバー氏をEU委員長にはしたくない。そう思っていたところ、ヴェーバー氏はまんまと失脚した。
ところが今度はティマーマンス氏だ。オルバーン首相としてはこちらの方がもっとたちが悪い。ティマーマンス氏はEUの司法担当委員を務め、各国における法の支配、人権擁護等を監視する立場にある。当然、ハンガリーは問題国の第一番に挙げられ、ティマーマンス氏が激しくハンガリーを非難してきた。こういうティマーマンス氏のEU委員長就任は何としても阻止しなければならない。ティマーマンス氏の名前が上がるや、
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