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二転、三転の「混迷」を見せた欧州委員長選び

花田吉隆 元防衛大学校教授

拡大次期欧州委員長に就任することが決まったフォンデアライエン独国防相
 三幕物の、手に汗握る死闘劇だった。5月末の欧州議会選挙後から本格化した欧州委員会(EU)委員長人事。それぞれの幕には主役と刺客が登場し、主役は刺客にやられあえなく退場していく。圧巻は大阪のG20から舞台をブリュッセルに移した6月30日。延々18時間にわたる死闘が繰り広げられ、精も根も尽き果てたその時、一人の女性が登場した。ウルズラ・フォンデアライエン、ドイツ国防相。結局、ジャン=クロード・ユンケルEU委員長の後任はこの人物に落ち着いたが、何せ、ブリュッセルでは無名の人物。しかも、欧州議会に議席もないとあっては、欧州議会の了解もままならない。観客は4幕目を秘かに期待したが、7月16日、欧州議会はフォンデアライエン氏を了承、ようやく混迷の末の委員長選びが決着した。

第一幕、刺客はマクロン大統領

 第一幕は5月26日から28日まで続いた欧州議会選挙が終わってから。主役はマンフレッド・ヴェーバー欧州人民党(EPP)党首、刺客はエマニュエル・マクロン仏大統領。

 欧州議会を構成する政党はややこしいが、EPPが中道右派、欧州社会・進歩同盟(S&D)が中道左派で、それぞれ第一党と第二党の地位にある。これまで、この二党で欧州議会を支配してきた。今回初めて両党の合計が過半数に達せず、欧州議会を通すには他政党の協力が必要となった。それが、マクロン大統領の属するリベラル会派「欧州再生」(旧ALDE)と緑の党だ。もう一つ、重要なのが「筆頭候補制度」で、各党は筆頭候補を立てて欧州議会選挙を戦う。EU委員長はこの筆頭候補から選ぶという制度だ。前回、2014年にユンケル委員長を選ぶ際、もめたためこの制度が創られた。この制度のミソは、有権者が選挙に際し、EU委員長候補を含め政党を選択するという点にある。EU委員会に民意が届かない、との批判にこたえたものである。

 さて、この筆頭候補制度を前提にすれば、EU委員長はヴェーバー氏でなければならない。何せ、第一党EPPの筆頭候補だ。ところがこれにマクロン大統領が異論をはさむ。マクロン大統領は、自身がフランス大統領選挙で中道の二大政党を破って出てきた人物だ。今回、欧州議会選挙で、極右の国民連合に敗れはしたが、その差は僅少であり、同大統領として悪い戦いではなかった。何と言っても中道右派、中道左派の共和党と社会党を下すことができた。だから、EU委員長選びでも、二大政党のEPPやS&Dの候補は認めたくない。更に、ヴェーバー氏に閣僚経験がないというのも、マクロン大統領が問題視した点だった。EU委員長は各国首脳とやり合う重要なポストだ。閣僚も経験していないのでは役不足でないか、という。ヴェーバー氏はドイツ、キリスト教社会同盟(CSU)副党首ながら、専ら欧州議会を足場に活躍してきたドイツ中央政界とは無縁の人物だ。

 無論、こういうマクロン大統領の横やりにメルケル首相は激しく反発する。理はメルケル首相の方にあった。何せ、委員長は筆頭候補の中から選ぶと決めてあるし、ヴェーバー氏は最大政党EPPの筆頭候補である。しかし、マクロン大統領が自説を曲げることはなかった。時間だけが経過し、独仏の対立が印象付けられていく。フランスの反対を押し切ってまでしてヴェーバー氏を委員長に据えたのでは今後の独仏協力にさわる。メルケル首相は、ヴェーバー氏を降ろすしかない、とハラを決めた。

 かくて、刺客マクロン大統領は首尾よく主役ヴェーバー氏の刺殺に成功だ。マクロン大統領の粘り勝ちで第一幕が終わる。

 第一幕後の幕間、大阪のG20サミット。

 そこにメルケル首相、マクロン大統領、ペドロ・サンチェス、スペイン首相、マルク・ルッテ、オランダ首相が顔をそろえた。ユンケル委員長とドナルド・トゥスク欧州理事会議長もいる。幕間の配役としては十分すぎるほどだ。関係者が内々集まり善後策が話し合われた。ヴェーバー氏は降ろすこととして、では、誰が第二の主役になるか。第一党EPP筆頭候補に代わるのは、第二党S&Dの筆頭候補フランス・ティマーマンス氏しかいない。中道左派S&Dの筆頭候補は、マクロン大統領としては避けたいところだが、ヴェーバー氏を降ろし、ティマーマンス氏もというわけにはいかない。ティマーマンス氏は元オランダ外相だから経歴としては申し分ない。マクロン大統領を含め全員がティマーマンス氏で了承した。EUの中核国首脳が了解したことだ。これで事態は決着かと思われた。

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筆者

花田吉隆

花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授

1953年生まれ。東京大学法学部卒業。在南アフリカ大使館公使、在スイス大使館公使、在フランクフルト総領事、在東ティモール特命全権大使、防衛大学校グローバルセキュリティーセンター教授等を経て、現在、早稲田大学社会科学総合学術院非常勤講師。著書に『東ティモールの成功と国造りの課題』(創成社、2015年)、「スイスが問う明日の日本」(刀水書房、2018年)等。

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