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台風の目の中?でおこなわれた参院選

内政、外交の課題山積なのに投票率50%割れ。野党への不満を集めた山本太郎氏に注目

田中秀征 元経企庁長官 福山大学客員教授

参院選の結果を受けて記者会見する安倍晋三首相=2019年7月22日、東京・永田町の自民党本部

低投票率、不完全燃焼の選挙

 内には増税や年金問題。経済の先行きも不透明。外を向けば外交課題が山積。これほど内外情勢が緊迫しているなかで迎えた参院選は珍しい。

 ところが、投票率は48%台。50%を割ったことは過去一度しかなく、戦後二番目の低さだという。その結果、自民党は全有権者の20%そこそこの得票によって57議席を獲得した。公明党は14議席を得て、自公の与党で71議席、改選議席の半数は上回った。しかし、自民党単独では過半数を割ってしまった。

 安倍晋三首相は22日に記者会見を開き、「政治の安定」を争点としたが、その目標を達成できたと胸を張った。だが、課題山積のなか、あり余る問題が白熱した争点とされることなく、参院選は結局、不完全燃焼で終わってしまった。

 周囲は暴風雨なのに、まるで台風の目のような静けさの中での選挙だったようにみえる。

期待が薄れる岸田文雄氏と保守本流の衰弱

 安倍首相のなによりの強みは、自民党内に自分を脅かす対抗馬が見当たらないことだ。あえて言えば、昨年の総裁選にも立候補した石破茂・元幹事長だが、党内に石破支持は広がらないと見切っているのだろう。その根っこには石破氏が「自民党の一番大変なときに離党をした」という点にある。

 実際、自民党を離党して新自由クラブを結成し、後に復党した河野洋平氏も、自民党総裁にはなったが首相にはならなかった。現在の二階俊博・幹事長も小沢一郎氏とともに自民党を離党し、同党に敵対した。それを考えると、いま、幹事長の座にあることは、望外のことだろう。

自民党の参院選開票センターでテレビのモニターを見つめる岸田文雄政調会長=2019年7月21日、東京都千代田区永田町
 首相が最も気になる存在は、いま自民党政務調査会長をつとめる岸田文雄氏か。彼は池田勇人、大平正芳、鈴木善幸、宮沢喜一と4人の首相を出した自民党宏池会に属し、現在会長をつとめている。吉田茂・元首相も宏池会結成時に参加していた。いわゆる保守本流の主流である。

 岸田氏が昨年の自民党総裁選に出馬しなかったのは、安倍首相からの禅譲を期待しているからだと言われる。自分の他に総裁の有力候補なしと思っているのだろう。だが、安倍首相にへつらうようにみえることから、期待は急速に薄れつつある。

 今回の参院選でも、党から出された2人目の自民候補擁立方針を拒むことができず、岸田氏の地元であり宏池会王国と言われる広島県で、重鎮を落選させてしまった。そればかりか、岸田派宏池会所属の現職参議院議員の候補者9人のうち4人まで落選させてしまった。

 宏池会や田中角栄派の流れは“保守本流”と言うが、もう一つの岸信介ー福田赳夫-安倍晋三という首相の流れを私は“自民党本流”と呼んでいる(拙著『自民党本流と保守本流』参照)近年、この保守本流が急激に衰弱しているが、岸田氏の弱腰はこの衰弱に拍車をかけているように思わざるを得ない。

改憲に取り組みやすくなった安倍首相

 今回の参院選の結果を受けて、新聞の大見出しは「改憲3分の2は届かず」が多い。3分の2を確保するために必要な85議席に4議席足りないと言うのである。

 しかし、私はこれによって逆に安倍首相が改憲に取り組みやすくなったと思っている。

 3分の2に届かせるために4人を新たに確保するためには、

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