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大躍進し損ねた山本太郎・れいわ新選組に必要な事

得票に必ずしもつながらなかった演説会場の「熱狂」。来たるべき衆院選で大切な戦略は

米山隆一 衆議院議員・弁護士・医学博士

東京選挙区で立候補した野原善正氏(右端)、比例候補者たちと記者会見するれいわ新選組の山本太郎代表=2019年7月21日夜、東京都千代田区

「5議席くらいいけると思ってたら……」

 参議院選挙が終わりました。結果は与党で過半数を占めるものの、与党に維新を加えた改憲勢力では3分の2を割るという中間的な結果に終わりました。

 私が選挙前に総得票の5%、300万票をとって複数の当選者をだすと予想した「れいわ新選組」は、総得票の4.5%、228万票を取得し、比例で2つの議席を獲得しました。この結果は比較的私の予想に近く、選挙直前まで存在しなかった政党である事を考えれば「躍進」と評価されていいものです。

 一方で、れいわ新選組の演説会が各地であれだけの聴衆を集めたことを考えれば、代表の山本太郎氏自身が「5議席(得票率10%程度に相当)くらいいけるかなあ思ってたら、自分も落ちちゃった」と言っている通り、党代表である山本太郎氏が落選しての当選2は、「躍進」はしたけれど、「大躍進」はしそこなった、いわば「停滞」であるとも評価できる中間的な結果であったと思います。

 れいわ新選組の「躍進」の理由は、前稿の「山本太郎・れいわ新選組が選挙で伸びる三つの根拠」で示した通り、左派ポピュリズムど真ん中の政策・理念が、現在の政治で報われていない層の心をつかみ、そこに恐縮ながら「負け組ルサンチマン」と、山本太郎氏自身の演説能力・カリスマ性が加わって、各地の演説現場で見られた「熱狂」を生み出したからだと思われます。

 では、れいわ新選組がその「熱狂」にもかかわらず、得票率10%、5議席程度の「大躍進」には至らず、(4月1日に結党した政党としては、十分多いとはいえ)得票率4.5%、2議席にとどまった「停滞」の理由は何でしょうか。

れいわの選挙戦略に抱いた疑問

当選確実となり記者会見で笑顔を見せるALS患者の舩後靖彦氏とれいわ新選組の山本太郎代表(右)=2019年7月21日夜、東京都千代田区
 これについては、賛否はあるでしょうが、私は率直に言って「候補者擁立戦略」が原因だと言わざるを得ないと思います。

 上記の通り、れいわ新選組はその政策・理念で熱狂的な支持者を摑(つか)みました。しかし、演説会にいかに多くの人が集まったとはいえ、一か所で数千人を超えることは稀です。得票率10%、500万票の「大躍進」を達成するためには、会場に足を運ぶほどではなく、熱狂しているわけではないけれど、「何となく共感する」位の有権者に支持を広げ、投票してもらわなければなりません。そのためには、党の政策・理念だけではなく、「誰が立候補しているのか」という候補者擁立戦略が、極めて重要になるのです。

当選を決め、記者会見で笑顔を見せるれいわ新選組の木村英子氏(左)と山本太郎代表=2019年7月22日、東京都千代田区
 ここは間違えて欲しくないのですが、私は、重度身体障碍者である木村英子氏、舩後靖彦氏両名を「特定枠」で優先したことも、「タレント候補」と言えるような候補者を擁立しなかったことも、なにより山本太郎氏自身が当選確実な東京選挙区に立候補せず、野原善正氏を擁立したことも、その狙いやコンセプトが悪いと言う積りは毛頭ありません。「理想の高さ」という点では、素晴らしいと思います。

 しかし、残念ながら山本氏の理想とは別に、選挙には選挙の「現実」があります。こんなことを言うとがっかりされるかもしれませんが、「選挙の現実」として、候補者の王道は、今なお、「クラスのヒーロー、ヒロイン」なのです。

票を集めるのは誰か

 繰り返し間違ってほしくないのは、これはそうでない人は候補者にふさわしくないなどと言う「適格性」の議論ではまったくなく、「誰が票を集めるか」という「結果論」「現実論」の話です。

 容姿は現実の政治を行ううえではほとんど関係ありませんが、しかし現実には、同じ条件で戦えば、やはり美男美女が票を集める結果になります。だからこそ、各候補は選挙ポスターを作るに当たっては、何百枚も撮った写真の中から最も映りのいいものを選び、中には「もはや詐欺だろう」というレベルまでフォトショップを駆使したり、写真の年代を遡ったりする候補者も出るのです。

 また、運動能力も基本的には政治を行うには無関係です。しかし、現実をみると、人はおうおうにしてたくましく、きびきび動く人を有能だと思い、票を入れます。だからこそ各候補者は、少なくともテレビカメラが回っている場面では、どんなに疲れていても、有権者のもとに全力疾走で走りますし、なかには演説のたびに意味も無くバク宙をする候補者すらいます(私です……苦笑)。

 知名度に至っては、議員になった後の活動には全く関係ありませんが、しかし現実には、人は自分が知っている名前の人に投票します。知名度の高い候補者と低い候補者が同じ条件で戦えば、多くの場合知名度の高い候補者が勝ちます。だからこそ各候補者は、少しでも知名度を上げようと選挙カーで名前を連呼し、その効果は各種の調査で立証されています。それが、選挙の現実なのです。

 れいわ新選組の擁立した候補者は、率直に言って、山本太郎氏以外は「クラスのヒーロー、ヒロイン」タイプではありませんし、知名度も非常に高いとまでは言えませんでした。この候補者擁立戦略をとる以上、コアな支持者の熱狂は得ても、その外側の、一般的な有権者に支持を広げる事は困難で、得票率、獲得議席が「大躍進」に至らず「停滞」したのは、「従来の選挙セオリー」から考えたら、あまりに当然の結果だったのです。

想像するほど早くない理想の伝播速度

 では山本太郎氏はなぜ、このような候補者擁立戦略をとったのでしょうか。これについては、今回の結果を意図したうえで、「障碍者の政治参加に風穴を開けるため」という良い見方から、「障碍者候補者を利用し、当選後は辞職させて自らが議席を得るため」という完全に邪推と言える見方まで、さまざまな言説が飛び交いました。

参院選後、記者会見するれいわ新選組の山本太郎代表=2019年7月22日、東京都千代田区
 しかし私は、山本太郎氏はご自身が言っていた通り、この候補者擁立戦略が示す「誰もが政治に参加できる」という氏の理想が世の中に伝播し、熱狂的支持が加速し、「大躍進」といえる10%、500万票程度の得票を得て、5議席程度の議席を獲得できるとシンプルに信じていたのだと思います。かつて野党統一候補で選挙戦を戦った私は、理想を信じる野党陣営において、これと同様の「理想の伝播速度」についての誤解、もしくは過信を山ほど見てきたからです。

 野党側の人間は、現状を変えようと願い、自らの理想が世の中に理解され、世の中を変えられると基本的に思っています。それ自体は当然で、そう思えないなら、野党をやる意味はありません。しかし、理想が人々に伝わり、現実が変わる速度は、決して自らが考える程、速くはありません。

 れいわ新選組がとった「候補者擁立戦略」の理想は、

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