井田奈穂(いだ・なほ) 「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」事務局長
1975年、奈良県生まれ。IT企業勤務の会社員。Twitterでつながった仲間と、地元の東京都中野区議会に陳情を出したことをきっかけに2018年11月、団体を設立。各地のメンバーをサポートし、2019年7月までに三重県や横浜市、広島市など22の地方議会から選択的夫婦別姓制度を求める意見書を国に送った。6月19日には東京都議会でも請願採択。現在メンバーは約120名。
首相、もう潮時です。40年越しに「真の女性活躍」を進めた首相になってください
2019年の七夕の日。降りしきる雨の中、私たちはJR中野駅前で選挙演説に訪れるという安倍晋三首相を待っていました。
昨年11月、私がTwitterで出会った仲間と立ち上げた「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」のメンバーも6人、一緒にいました。
首相から見える場所を探したものの、すでに人でいっぱい。ひしめき合う傘の間は、むんむんと暑いほどの熱気でした。テレビ局のカメラの前のわずかなスペースしかなく、私たちはそこで待つことにしました。
政治家の演説にプラカードを持って行ったのは初めてでした。
きっかけは7月3日の日本記者クラブの党首討論会。「選択的夫婦別姓を認めるか」について、安倍首相は1人だけ手を上げなかったのです。
実際に結婚できなくて困っている人、改姓して苦しむ人を、その目で見てほしいと思いました。
この日集まった7人のうち2人は「妻と夫の対等な関係性のまま結婚したいから」と、35年も前から事実婚を続けているご夫婦でした。そして「生まれ持った氏名で、この人と結婚させて」という思いを首相に伝えるために、わざわざ群馬県から来た20代のカップルもその場にいました。
安倍首相の演説が始まった時、群馬県のカップルの20代女性が、傘の合間から「選択的夫婦別姓の実現を」というプラカードを掲げました。
すると驚いたことに、スラックスの上に黒のパーカーを着た背の高い男性が傘の波をかき分け近づいてきて、手に持った「がんばれ自民党」「安倍総理を支持します」というプラカードをその上に覆い被せてきたのです。
何も声をかけられず、突然の行為だったので、私たちはびっくりしました。
「すみません、ちょっと見えなくなるので」と声を出したものの、無言で、この女性が右に行けば男性も右、左に行けば左と、しばらく攻防が続きました。
静かで怖かった。視線すら合わせないのです。背の小さい私たちは威圧感を感じ、プラカードを下げました。
私たちは安倍首相を批判しに来たのではありません。「結婚できず困っている人たちがここにいる。選択的夫婦別姓を実現してほしい」。自分の国のリーダーにそう訴えにきただけでした。
「安倍帰れ」とコールした人たちもいましたが、私たちはただプラカードを掲げていただけです。はぐれてしまった夫婦2人のメンバーも、やはり同じ目に遭っていたことを、後で合流して聞きました。
「当事者の存在をかき消すような行為を受けたのはショック」「安倍さんはこんなの、喜んでいるのかな」
20代のメンバーたちも驚いた様子でした。プラカードを隠した男性は誰だかわかりません。しかし自民党支持者の方でも、多様な意見に首相が触れる機会は奪わないでいただきたかったと感じました。
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