山口 昌子(やまぐち しょうこ) パリ在住ジャーナリスト
元新聞社パリ支局長。1994年度のボーン上田記念国際記者賞受賞。著書に『大統領府から読むフランス300年史』『パリの福澤諭吉』『ココ・シャネルの真実』『ドゴールのいるフランス』『フランス人の不思議な頭の中』『原発大国フランスからの警告』『フランス流テロとの戦い方』など。
議長官舎で開いた晩餐会は「公的」か「私的」か?辞任の決め手は豪華すぎる食事の写真
オマール(車エビ)の山と銘柄ワインが並ぶ豪華な食卓にフランス人の怒りが爆発。グルメの国フランスで、豪華晩餐会に端を発した政治家とメディアの丁々発止の戦いが、世間を賑わしている。公費による晩餐会をすっぱ抜かれた大臣は辞任に追い込まれたものの、「身の潔白」を訴えてメディアを名誉棄損で告訴。だが、メディアも負けておらず、官舎の公費による改装・修理問題も指摘。両者の争いは当分、続きそうだ。
7月16日に環境相を辞任したのは、フランソワ・ドルジ前国民議会(下院)議長(45)だ。すっぱ抜いたのは、このところ特ダネ連発の左派系ニュースサイト・メディアパルト。ドルジが国民議会議長時代(2017年5月~2018年9月)に、公費を使って議長官舎で主催した晩餐会12回が、「私的な会食だった」と指摘した。つまり、「職権乱用、公金横領」だ。
この記事だけなら、フランスでは「よくある話」で驚くに当たらない。なにしろ、食べた御馳走を吐きながら、次々と御馳走を平らげ、甘いデザート類で歯がボロボロになった王様がいた国のこと。上下議会の議長や大臣はもとより、各官庁のトップのために官舎や省内に立派な個別の食堂があり、専任のシェフが腕を振るう「会食」が頻繁に実施されているからだ。大半は仕事を兼ねた「会食」だが、友人、知人を招待しての「私的」な場合も少なくない。
シラク元大統領が現役のころ、エリゼ宮(大統領府)の食費が異常に高騰したことがあった。「ドイエ(柔道の五輪の金メダリスト。1996年に95㌔以上、2000年に100㌔以上で優勝)を養っているから」と冗談まじりに囁(ささや)かれたことがある。ドイエは約125㌔の大食漢。シラクと親しく、ベルナデット夫人の慈善事業の手伝いもしており、エリゼ宮に頻繁に出入りしていた。後に政界に進出、右派系の国民議会議員も務めた。
論座ではこんな記事も人気です。もう読みましたか?