男系維持を貫徹して皇位継承問題を解決する方法は今や万策つきている
2019年07月30日
参院選が終わった。私が所属する立憲民主党をはじめ、野党陣営は明確な争点と選択肢を示しきれず、安倍晋三政権に切り込んで権力をリバランスする(最適な状況に戻す)という結果には至らなかった。そのことを反省しつつ、しかし選挙が終わったからこそ、すぐさま始めなければならない議論がある。
それは皇位継承問題だ。なぜ、そう考えるのか。
新年祝賀の儀など定例的な行事から、代替わり前に行われた天皇陛下御即位30年宮中茶会など特別の行事まで、国会議員が皇居に招かれて皇族の方々と触れ合う機会というのは折々にもうけられている。
多くの場合、その式典の趣旨に沿ったシンプルなご挨拶などがあったのち懇談の時間となり、皇族方はお一人ずつ自然に分かれて列席者のもとにお進みになる。社交的な議員を中心に皇族方を輪になって取り囲むから、会場にはいくつもの輪が広がりさざめきあう。その輪の外側には、会場の壁にはりついて小さなグラスに注がれたシャンパンをすする議員などもいて、私はもっぱらこちらを担当することにしている。
政治家同士が上品でなごやかな時を共にする稀有な時間が流れる。
しかし、私は壁際でいつも思う。宮中に参上し皇族方を取り囲んでその弥栄を願う気持ちが本物なら、皇位継承・皇室 存続のために国会議員にしかできない仕事をしませんか、と。
宮中での礼服姿をSNSにアップすることが、国会議員の仕事ではないはずだ。
平成から令和へと時代が移った6月11日、立憲民主党は「象徴天皇制の未来のために~安定的な皇位継承を確保するための論点整理~」発表した。
昨年夏、海江田万里議員に「安定的な皇位継承を考える会」の会長を引き受けていただいてから1年弱、事務局長としてこの論点整理を取りまとめる貴重な機会を得た。平成30(2018)年7月20日から令和元(2019)年6月10日まで21回の会合を開き、外部講師を招いて知見を広めたり、議論を交わしたりして、とりまとめにこぎつけた。
最初に断っておくが、私は立憲民主党が立派だという文脈で本稿を書いていない。憲法第1章の顔であり、この国の統治機構の根本にかかわる「天皇」制を扱う会合にもかかわらず、党内の参加者は少なかった。この論点整理の趣旨が十分浸透していないことに、事務局長として至らなさも痛感している。
ただ、「全国民統合の象徴」である「天皇」制の課題を、「全国民の代表」である立法府が解決にあたるため、立法府の主たる活動単位である政党が、付け焼き刃ではない一定のクオリティーの「論点整理」を国民に示せたことには重要な意義があると考えている。
そこで本稿では、「論点整理」には盛り込めなかった視点を含め、とりまとめに至った思考の道筋をあらためて整理してみたい。皇位継承について、国民が理解を深める一助になれば幸いである。
その理由は、現在、皇位継承の資格要件が、歴史上最も厳格に定められているからに他ならない。
考えてみてほしい。男系男子で永遠に皇位をつなぐことを目指すなら、適否はともかく非嫡出子という制度を許容せざるをえない。一方、現代においては、非嫡出子による皇位継承が不適切と見なすなら、男系男子の要件を広げるしかない。
ところが皇位継承の資格要件は今、「男系男子」かつ「嫡出子」とされている。これだと、必然的に先細る制度としか言いようがない。そうした制度を放置した結果が現状なのである。
皇位継承の先細りの原因が資格要件の厳格さにある以上、要件を見直す必要があるのは明らかだ。「男系男子」以外の3要件、すなわち「嫡出であること」「皇統に属すること」および「皇族の身分を有すること」については、これを見直す議論は見当たらず、少なくとも現代における選択肢にはならないだろう。とすれば、「男系男子」という要件を見直すしかない。
今回、論点整理をするにあたり、皇位継承に関する国会議論をひもといて驚いた。日本国憲法公布前、昭和21(1946)年9月10日時点の国会で、すでにこの論点は提示されていて、答弁に立った金森徳次郎大臣は次のように答えている。
「男系の男子ということは(憲法)第2条には限定してありませぬ。その趣旨は根本において異なるものありとは考えませぬけれども、しかし時代時代の研究に応じて部分的に異なり得る場面があってもいいと申しますか、そういう余地があり得る」(貴族院帝国憲法改正案特別委員会)。
金森大臣は、同年12月5日「男系によるということが何故に正しきや否やということの論議は、相当にむずかしい」(衆議院)とも述べており、男系継承貫徹論を論理的に裏付けることの難しさをにじませつつ、将来これが変わりうる余地を明快に残している。そのうえで現代にいたるまで、政府は繰り返し、皇位継承者を男系男子に限ることは憲法上の要請ではないと、国会答弁で明言し続けているのだ。
要は、女性・女系への皇位資格拡大は、憲法が時代時代の立法政策に意識的に委ねた事柄なのである。皇太子不在かつ次世代継承者お一人という時代を迎えた今、真摯(しんし)に検討する必要があるだろう。もはや先送りにする時間は残されていない。
かかる問題意識に立ち、今回の「論点整理」では、女性天皇是認、女系天皇是認、そして女性宮家創設までが、切っても切れない1本の糸であり、この糸を手繰り寄せない限り、皇位継承の安定性は確保できないことを鮮明にした。
そのロジックは極めてシンプルである。すなわち、
①天皇制を自然消滅させないために、女性天皇をも認める必要がある。
②女性天皇を認めるなら、女系天皇をも認める必要がある。
③女性・女系天皇を認めるなら、女性宮家をも認める必要がある。
である。
つまり、天皇制を安定的に続けるためには、女性天皇・女系天皇・女性宮家をパッケージで認める必要があるのだ。このシンプルなロジックを理解していただくために、①②③のそれぞれについて詳述したい。
まず、①天皇制を自然消滅させないために、女性天皇をも認める必要がある、についてである。
前述のとおり、変更可能な唯一の要件は「男系男子」要件である。そして、「女性天皇」なしに「女系天皇」はうまれないから、まずは女性天皇を認めるかどうかが論点となる。
男性天皇のみならず女性天皇も認めれば、男子が生まれないことによる天皇制の自然消滅のリスクを抜本的に解決できることは明らかだ。一方、今年実施された各種の世論調査を見ると、女性天皇を是認する国民世論は約7割から8割を占めている。国家の象徴、国民統合の象徴として天皇をイメージする際、国民が女性を思い浮かべることに違和感を持たない時代なのだ。
次に、②女性天皇を認めるなら、女系天皇をも認める必要がある、である。
女性天皇を認めて、女系天皇を認めないとどうなるか。女性天皇の子どもは天皇とならない、すなわち女性天皇は一代限りとなる。「親から子へ」つながらないから、直系継承ではなく傍系継承が頻繁になる。男系の傍系宮家に子どもが生まれるとも限らず、そもそも皇位継承の不安定さは解消しない。
さらに、女性天皇は男性天皇と異なり、親として子に近くで接しながら、「天皇」としての振る舞いを教え、次世代へとつなぐ役割が期待されないことになる。「子につながらない一代限りの不安定な天皇」より「子につながる安定的な天皇」が望ましいとして、男性天皇ひいては男子出産を望む圧力は一向に止まないだろう。
要するに、女性天皇のみを認め女系天皇を認めない立場は、「男系維持」の立場に他ならない。だが、その帰結は上記のとおりである。ならば、真に皇位継承を安定させるためには、女系天皇をも認めるしかない。
最後に、③女性天皇・女系天皇を認めるなら女性宮家をも認める必要があるについて見てみる。
女性天皇や女系天皇を認めながら、女性宮家を認めないとどうなるか。女性宮家を認めない現行制度では、女性皇族は一般国民と結婚すれば皇室を離れる決まりになっている。仮に女性天皇が認められ、実際に皇位継承資格第1順位の女性皇族が存在しても、一般国民と結婚すれば皇族でなくなり、天皇となる資格を失うこととなる。
とすれば、女性天皇を認めて女性宮家を認めなければ、皇位継承資格を持ち、次の天皇と国民から期待される女性皇族に対し、事実上結婚を認めないことになりかねない。これは是認できない。もっと言えば、女系天皇を認めることは、女性天皇が子どもをもうけて皇位をつないでいく可能性を前提としているから、女性皇族が結婚しても皇室に残れる女性宮家の制度がなければ、成立しない。
このように、女性天皇・女系天皇・女性宮家は論理的に必然の糸でつながっている。いかなる価値観に立とうとも、皇室制度を続けようという意思を共有する限り、積極であれ消極であれ是認せざるをえない「唯一解」なのである。
「男系男子」要件を維持貫徹する観点から、皇籍を離れた旧宮家の子孫に皇籍を取得させ、皇位継承へとつなげる提案が出されたのは、昭和22(1947)年だった。
まず、はっきりさせておかなければいけないのは、ここで想定しているのは旧宮家の皇籍「復帰」ではなく、あくまで一般国民として生まれ育った旧宮家の子孫による皇籍「取得」であるということだ。その前提で考えたとき、この提案には三つの問題点があると考える。
第一の問題点は、この新皇族にも男子が生まれない限り、皇位継承につながらず、なんら抜本的な解決策にならないことである。
第二は、旧宮家の子孫の誰かが突然、一般国民から皇族になっても、国民の自然な理解と支持は得られないという点だ。多様な価値観、大量の情報のなかで生きる現代の国民に対し、600年遡れば天皇の男系の血筋につながる人物だと説明して、理解を得るのは難しい。
第三は、旧宮家子孫であっても、一般国民である以上、皇籍「取得」を強制することはできず、本人に引き受ける意思が必要である。だが、この提案がなされてから今にいたるまで、対象となる人物が具体化したことはなく、むしろ対象となりうる当事者方からは消極的な声が聞こえてくる。仮に今後自発的な引き受け手が現れたとしても、国民の理解が得られるとは考えられず、その判断を含めて誰がいかなる基準で判断するのかそのプロセスも想定しがたく、実現可能性がないとしか言いようがない。
つまり、男系維持を貫徹して皇位継承問題を解決する方法は、現代においては「万策つきて」おり、実現不可能なのである。換言すれば、今や別の方策を選択するしかないという現実を直視しなければならない時期にきているのである。なにも、男女平等の観点を天皇制においても貫徹すべきだと、拳を振り上げているわけではないと分かっていただけると思う。
では、実際のところ、安倍政権において女性天皇・女系天皇・女性宮家を実現することは可能なのか。「下」で考えてみたい。
「下」は30日に夜に「公開」します。
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