安倍総理!皇位継承の議論をすぐ始めましょう・下
皇室制度を守り皇族方の人生の尊厳を守るために女性天皇・女系天皇・女性宮家を
山尾志桜里 衆院議員
意外とも見える安倍氏の三つの答弁
問題はその中身である。安倍総理は男系貫徹路線=旧宮家皇籍取得案に拘泥し続けるのだろうか。その点について、意外とも見える以下の三つの答弁を紹介したい。
一つ目は、平成18(2006)年1月27日、小泉純一郎政権における安倍官房長官(当時)の答弁である。
そこで安倍官房長官は、男系男子に限定する現行の皇室典範制定時の国会での論点として、①過去の事例を見る限り男系により皇位継承が行われてきており、それが国民の意思に沿うと考えられること②女性天皇を可能とした場合には、皇位継承順位など慎重な検討を要する困難な問題があり、なお研究を要すること③男性の皇位継承資格者が十分に存在していること――をあげている(衆議院予算委員会)。
しかし、現在、国民は女性・女系天皇を十分に許容し、皇位継承順位についての議論も一定程度熟し、そのうえで男性の皇位継承資格者は極めて少なくなり限界に達している。こうした現状を冷静に議論すれば、安倍総理も官房長官時代の自身のロジックを崩すことなく、時代の変化を考慮して、「あてはめが変わった」ことによる「新しい判断」が可能なのではないか。

安倍晋三首相=2019年3月20日、国会
二つ目は、平成29(2017)年1月26日の衆議院予算委員会での細野豪志議員に対する答弁である。
細野議員が「男系を維持するために、希望する旧宮家の皇籍復帰もしくは養子、このやり方を総理御自身が発表されていますが、こういう考えを今でも持っておられるんですか」と質問したのに対し、安倍総理は「これは総理大臣に就任する前の話でありますが、一つの選択肢としてそれはあり得るのではないか、こう考えていたわけでございます。……(中略)……その制度をつくっても、これは全く絵に描いた餅にならないようにしなければいけないわけでございますし、……(中略)……では果たしてその対象者がどこも希望というか、全てから拒否されるということもこれはあり得るわけでございます」と答えている。
男系貫徹=旧宮家皇籍取得(復帰)案について、総理大臣としての現在の自説と重ねることを明確に回避し、むしろこの案は実現不可能かもしれないことを具体的積極的に明言している。
三つ目は、平成31(2019)年3月20日の大塚耕平議員に対する答弁である。
大塚議員が「GHQの指示に基づいて11宮家と26人の皇族の方が皇籍離脱をしたという、これをこのままにしておいて本当に戦後政治の総決算ができるというふうにお考えですか」と質問したのに対し、安倍総理は「皇籍を離脱された方々はもう既に、これは70年前の出来事で、70年以上前の出来事でございますから、今は言わば民間人としての生活を営んでおられるというふうに承知をしているわけでございます。それを私自身がまたそのGHQの決定を覆すということは全く考えてはいないわけでございます」と答えた。
戦後政治の総決算という文脈で、皇籍離脱の巻き戻しを提起する大塚議員の質問には驚いたが、それを明瞭に否定した安倍総理の答弁ぶりも、よい意味で意外であった。
細野議員は旧宮家皇籍取得案について、「到底国民に受け入れられると思わない」と明言してきた否定派だ。他方、大塚議員は続く質問でも「旧宮家の皇籍復帰も皇位の安定継承の選択肢の一つと理解してよいか」と総理に確認を求めているから、旧宮家皇籍取得案に肯定的な立場なのだろう。立場が異なる二人の質疑者であるが、いずれも総理から旧宮家皇籍取得案に拘泥しない柔軟な答弁を引き出した功労者だと思う。