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姜尚中氏に聞く。最悪の日韓関係をつくり出すもの

【番外】ナショナリズム 日本とは何か/いがみあう歴史の亡霊たち

藤田直央 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

拡大インタビューに応じる姜尚中氏=7月26日、東京都内。藤田撮影

 日韓関係の悪循環が止まらない。修復不能にさえみえる深刻さだ。なぜこうなってしまったのか? 論座での連載「ナショナリズム 日本とは何か」に取り組む筆者が助言をいただく姜尚中・東京大学名誉教授(68)に、あらためて尋ねた。

 在日コリアン2世の政治学者として、日本と韓国の事情をリアルに知る姜さん。もつれ合う日本と朝鮮半島の近現代史を解きほぐしつつ、「歴史の亡霊を呼び出していがみ合う言動」に警告を発した。

「ここまで悪くなるとは」

――令和になって3カ月になります。残念ながら日本にとってこの新たな時代のスタートは、1965年の国交正常化後で最悪に陥った日韓関係とともに記憶されそうです。なぜこうなってしまったのでしょう。

 ここまで悪くなるとは、正直予想していませんでした。

 韓国の前の前の李明博大統領が竹島を訪問し、天皇陛下への謝罪要求をしたことが、日本国民の韓国に対する反発の土壌になっていたと思います。前の朴槿恵政権と日本の安倍晋三政権との間で「慰安婦問題合意」という形で蓋をしたと思ったら、文在寅政権になって慰安婦に加え、徴用工の問題で蓋が外れてしまった。

 日本側にすれば、韓国との歴史問題はいつまでたっても埒(らち)があかないという世論が、安倍政権のコアな支持基盤よりも広がってきました。かたや韓国側には、安倍首相はかつて満州国政府で幹部を務めた岸信介首相の孫であり、その政権は右傾化した歴史修正主義だという、通り一遍の不信感があります。

拡大2018年4月27日、板門店で韓国と北朝鮮の軍事境界線を挟んで握手しようと手を伸ばす文在寅大統領(右)と金正恩朝鮮労働党委員長=韓国共同写真記者団撮影
 そうした中で文政権は、安倍政権が驚くほどのスピードで北朝鮮との関係正常化に乗り出した。日本が拉致・核・ミサイル問題を抱える北朝鮮に対し、韓国は昨年の平昌五輪を機に猛烈な勢いで接近しました。韓国軍艦から自衛隊機へのレーダー照射もあり、安倍政権に、これは日本の安全保障に関わるという危惧が生まれたのだと思います。

 それで日本が輸出管理強化に乗り出すと、韓国では経済侵略と受け止められ、日本製品の不買運動に野党も異を唱えられず、挙国一致になりつつある。北朝鮮がまた短距離ミサイルを撃ちだす中で、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)といった安全保障での協力への影響すら懸念される事態になっています。


筆者

藤田直央

藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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