自民党幹部の改憲シフト発言が波紋。小賢しい策は必要な改憲もできなくする?
2019年07月31日
「米軍の占領が終わる前後に、自衛隊を憲法上、認知することにしておくべきだった」
これは、宮沢喜一元首相が生前、私に話してくれたことだ。しかも、幾度となく同じことを言ったから、よほどのこだわりがあったと私は受け止めている。
かねてから私も同じことを感じていたから、宮沢さんとは大筋で一緒の「憲法観」を持っていたと言ってもいい。
宮沢さんは巷間、いわゆる“護憲派”の代表選手のように言われてきた。ただ、私は本人が自ら護憲派と称するのを聞いたことがない。憲法尊重派というのがもっともピッタリしているだろう。衆議院手帳の最後に綴(と)じられている憲法全文をはぎ取って常時、上着の内ポケットに入れていた宮沢さん。そんな政治家がはたして他にいただろうか。
憲法について彼がもっとも強く反応したのは、「海外での武力行使」であった。9条のしばりのなかで、日本は海外でのいかなる武力行使もするべきではないという主張は揺るぎなかった。実はこの点で、自民党の歴代政権を支えた後藤田正晴・元官房長官、1993年に政権交代をはたした細川護熙・元首相、そして宮沢さんはまったく同意見であり、私はこの3人を“鉄の三角形”と呼んできた。
後藤田さんと宮沢さんは、戦争に対する世代的な共通認識があるので理解できるが、二人よりずっと若い細川さんがなぜ、同じ意見なのか。先の戦争に深く関与した祖父(近衛文麿元首相)への複雑な思いが背景にあるのだろう。
私自身は(小沢一郎さんがそうであるように)、国際連合が集団安全保障の体制を整えたら、日本の自衛隊もそれに参加するべきだと考えてきたが、“鉄の三角形”はそれも含めて、海外での武力行使はどんなものでも反対。仮に日本の武力行使が正しいものであったとしても、国際社会の大半はいまだにそれを歓迎するまでには至っていないというのだ。日本が過去に犯した過ちは、それほど大きかったと考えているのである。
私はこれまで、日本の改憲派を三つのグループに分けてきた。
第一のグループは、そもそも現行憲法が発布された当時から、これを憲法とは認めない「自主改憲派」だ。
第二のグループは、時代の変化によって憲法に生じた不備を是正していく「時代対応派」である。具体的には、同日選挙や7条解散の是非、臨時国会の召集期限の問題、あるいは環境権のような新たな権利規定の明記などで、私はこれに近い。近年、改憲派が増加しているように見えるのは、この「時代対応派」が多くなっているからだろう。
第三のグループは、アメリカとの間で「集団的自衛権の行使」ができるように強く望む外務省などの「日米一体化派」だ。これが、冷戦終結後の改憲派を強力に後押ししてきた。
外務省が主導するこの改憲派は、2014年7月1日に集団的自衛権の行使容認が閣議決定されると“存在理由”を弱め、改憲戦線から離脱した。「これによって無理して9条を改正する必要はなくなった。改正議論のなかで逆に集団的自衛権の不行使を追加されたりしたらたまらない」と考えたのか、外務省は閣議決定以後、一変して「ハト派」や「護憲派」を装うようになった。
現行憲法の根本規範部分を、政府の解釈変更によって転換したこの時の閣議決定は、あまりにも問題が多い。
日本で集団的自衛権が論じられるとき、その相手国は事実上、アメリカに限られる。そうした印象を薄めようとするためか、外務省サイドから時折、オーストラリアなど他国の名前が追加された流されてくることもあるが、現実にはあり得ない。
アメリカは言うまでもなく、世界最強の軍事大国である。それを承知で、アメリカに戦争を仕掛ける国はない。アメリカの戦争は、そのほとんどが「世界の警察」、「自由世界の警察」の名においてアメリカが仕掛けるものだ。この世界の警察としてのアメリカには最大限の敬意を払わざるを得ないが、そのアメリカを集団的自衛権の行使国とする日本にすれば、アメリカの都合で戦争に巻き込まれるリスクは非常に大きくなる。
そもそも、アメリカとの集団的自衛権の行使に踏み切ることは、アメリカと軍事的一体化を意味する。とすれば、アメリカの敵対国にとっては、日本を攻めることがアメリカを攻めることにもなる。日本がアメリカの脆弱な脇腹になる様子が目に見える。
もっと言えば、戦争を始めるか、終わらせるかも、日本の意思には沿わなくなる。この方向に一歩踏み出したら最後、とめどもない泥沼にはまっていくことを、日本は覚悟するべきだろう。
集団的自衛権行使容認の閣議決定の土台になっているのは、内閣法制局の見解であった。だが、法制局長官の首をすげ替えて強行するという、かつてないどぎつい「禁じ手」を使ったうえで、閣議決定に持ち込んだ。
もっとも重要なこと、もっとも必要なことの手続きこそ、公明正大に進めなければならない。これは古来、政治の第一の要諦(ようてい)である。
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