メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

無料

敗者の歴史から見る日本 佐野史郎さんとの対話

【20】ナショナリズム 日本とは何か/「悪役」は語る

藤田直央 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

「ぜひ大河ドラマに」

拡大インタビューで話す佐野史郎さん=6月20日、東京・南青山。朝日新聞社
――島後の人々は幕末、隠岐に現れた外国船に対する松江藩士の手ぬるい対応や、高い年貢に不満を持ち、自ら島を守ろうと学校を作ろうとして松江藩に断られて、「皇国の民」として蜂起しました。そんな「隠岐騒動」にひかれているそうですね。

 「ぜひ大河ドラマに」と、NHKのプロデューサーさんには機会あるごとに提案しています。十数年前、隠岐騒動の話を最初に聞いた時には「松江藩ひでえな」と思いました。でも、知れば知るほど単純な人道上の善悪では語れず、日本の近現代史を理解するには欠かせない出来事だと考えるようになりました。

 当時は、「蛤御門の変」で京を追われた長州藩が倒幕派の筆頭として朝廷と結びつき、徳川幕府の大政奉還を機に新政府体制へ猪突猛進します。中国地方全体がその動きにのみ込まれていく中で、親藩で天領の隠岐を預かる松江藩は最後まで幕府に忠誠を誓おうとした。その心根にも思いを寄せざるをえません。

 島後の人たちは、生きるために蜂起し、朝廷や長州藩との絆を生かしました。隠岐と朝廷の間には、「国産みの神話」が記紀に現れる大宝律令の時代や、鎌倉幕府との政争で皇族が流された中世から縁がある。幕末に隠岐にまで影響を与えた長州藩の権力奪還への執念は、歴代首相を多く生んだ今につながるものを感じます。

「悪者」を決める「勝者」

拡大筆者(手前)と話す佐野史郎さん=6月20日、東京・南青山。朝日新聞社
――隠岐騒動の魅力の本質は何なのでしょう。

 隠岐にせよ、松江藩にせよ、長州藩にせよ、その土地への人々の帰属意識が明瞭です。草の根に寄り添い生きようとする自然主義、ナチュラリズムといえます。

 私が松江出身ということもあるのでしょうが、一番気になるのは、松江藩から派遣されていた郡代のことです。島民に追放され、混乱の責任を取って切腹をした。新政府側から島民にあてた文書を勝手に開封したことが島民の怒りを買ったのは当然ですが、郡代にすれば、島民が尊皇攘夷にはやる中で愚直に天領の隠岐を守ろうとしてのことだったでしょう。

 しかも新政府自体が揺れていて、島後で島民の自治が始まってから松江藩が武力で奪還するまでの間には、松江藩に隠岐を引き続き治めるよう指示しています。島民も松江藩も何を信じたらいいのか、翻弄されていた印象です。

 今もそうですが、目先の事態の解決に追われるのが政治の宿命かもしれない。そんな解決が連なる歴史は「勝者」の視点で「悪者」を決めがちですが、後出しじゃんけんですよね。

 亡くなってもう反論できない「悪者」の声にも耳を傾けることが歴史の検証なのではないかというのが、俳優として歴史上の人物を演じ、感じてきた強い思いです。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

藤田直央

藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)

藤田直央の記事

もっと見る