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地位協定は日本の主権をどれだけ担保しているのか

環境汚染が起きれば、許可なく基地内に立ち入る権限を持つドイツやイタリアとの差。

松元剛 琉球新報社執行役員・編集局長

海外比較をして不平等を検証した「駐留の実像」

 琉球新報は2017年11月から2018年6月にかけて、日米地位協定と欧米や韓国が米国と結んだ地位協定の運用の違い、駐留する米軍の法的地位などを追った連載企画「駐留の実像」を47回にわたって連載した。

 国土面積の0.6%の土地に在日米軍専用施設面積の約70%が集中し、米軍の活動が住民生活に大きな影響を与えてきた沖縄県では、日米地位協定の「抜本改定」が強く求められてきた。「駐留の実像」は海外との比較の視点を軸足にとらえ、日米地位協定の具体的な問題点を各論として検証した。

 日米地位協定の内容が「不平等」「不公平」だと指摘される中、日本と同じく米軍が大規模に駐留するイタリアやドイツの事例も数多く紹介し、その比較を行うことで、問題点を相対的な形で検証した。ドイツやイタリアの米軍駐留に関する協定は日米地位協定に比べ「有利だ」と従来指摘されてきたが、条文上の文言だけでなく、実際の運用面でどう違うのかを報じるため、担当した島袋良太記者(現社会部)が現地を訪ね、丹念な取材を尽くした。

 具体的には沖縄で起きている「基地問題」、例えば米軍機の墜落事故における受け入れ国の調査への関与、環境汚染の実態解明や除去の在り方、航空機騒音、基地への立ち入り権などの問題が、ドイツやイタリアではどのように対処されているか、類似する事例を比べた。

 連載と関連し、米軍関係者による刑事事件に対する裁判権の放棄密約の運用状況や、日米交渉にみられる政府の追従姿勢の実態も追及した。米軍機の訓練空域の運用が優先され、民間機の航行の安全がないがしろにされている状況や、国民に知らされない形で米軍の訓練空域が実質的に拡大していることなども報じた。

 基地内を立ち入り調査し、環境汚染に国内法を適用し、米軍機の低空飛行を制限するドイツやイタリアとの違いが具体例で示される。象徴的なルポで連載はスタートしている。米軍の低空飛行訓練機がロープウェーのケーブルを切断し、22人が犠牲になった1998年の事故を巡り、イタリア軍幹部は、米軍に低空飛行訓練の原則禁止を求める交渉の場でこう通告する。

 「私はこの案をあなた方が許諾するかどうか、という議論をしていない。これは取引や協議でもない。米軍の飛行機が飛ぶのはイタリアの空だ。私が規則を決め、あなた方は従うのみだ。さあ署名を」

 国民の命を守るため、米軍に毅然と接するタフなイタリア政府に比べ、米軍にモノ言えぬ日本の主権放棄、対米従属はあまりにも対照的である。ドイツのルポでも同様な事例が紹介されている。

沖縄の未来③拡大大破したオスプレイの機体を切断する米軍関係者=2016年12月16日、関田航撮影

 連載「駐留の実像」は2018年度の「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリスト大賞(公共奉仕部門)」のグランプリである大賞を受けた。選考委員会は「沖縄の地方紙の記事であるが、日本全体に問題を投げ掛けている。この国に具体的な変革をもたらすための大きな役割を果たすと信じる」と評価した。

過剰な「主権」の譲歩

 「駐留の実像」は、特にイタリアやドイツにおける駐留米軍への主権の行使にあらためて光を当てた点で、日米安保の研究者、日弁連の法律専門家などから注目を集めた。連載は日米地位協定の改定を主張してきた沖縄県の背中を押し、県は欧州4カ国(ドイツ、イタリア、イギリス、ベルギー)で詳細な実態調査を実施した。

沖縄の未来③拡大米軍基地を抱えるイタリア、ドイツなどとの比較から、日米地位協定の対米従属ぶりを顕彰した「駐留の実像」の紙面

 沖縄県による欧州4カ国が米軍と交わす地位協定調査は、基地の管理権行使や、駐留国側の主権の行使など、多岐にわたる論点を分かりやすくまとめている。4カ国は北大西洋条約機構(NATO)とNATO軍地位協定を締結している。特徴的なのは、各国が補足協定などで米軍に国内法をしっかり適用し、住民生活をかき乱さないよう、駐留米軍の活動を制御している点だ。米軍の運用に国内法適用を除外し続ける日本との落差をくっきり照らし出している。

 ドイツでは、駐留米軍との間で1959年に「ボン補足協定」が締結されたが、国民の権利保護などで不利な点が多かった。1980年代に環境、航空などの国内法を外国軍に適用すべきだとの世論が高まり、1990年の東西統一を経て、国民世論をバックにした独政府はNATO軍を派遣する各国に協定の改定を申し入れた。1993年に米軍への国内法適用が拡充された改定が実現した。州や地方自治体が基地内に立ち入る権限を明記し、緊急時は事前通告なしの立ち入りも許容されている。米軍の訓練はドイツ政府の許可、承認、同意が必要となっている。

 1954年に米国との基地使用に関する協定を締結したイタリアは、1998年に米軍機がロープウェーを切断する事故が起き、20人が亡くなった。反米感情が高まる中、米伊両国は米軍機の飛行訓練に関する委員会を立ち上げ、米軍機の飛行を大幅に減らす報告書がまとまり、米軍の活動にはすべて国内法が適用されている。米軍の訓練は、イタリア軍司令官に事前に伝え、承認を受ける仕組みになっている。事故発生時も、伊軍の司令官が米軍基地内の全区域、施設に立ち入る権限を持つ。

 県の調査チームが面談したランベルト・ディーニ元首相はこう指摘していたそうだ。

 「米国の言うことを聞いている『お友だち』は日本だけだ」

沖縄の未来③拡大夕暮れが濃くなる中、訓練する米軍機がないイタリアのアビアノ空軍基地。住民生活に配慮した基地運用が徹底している=2017年9月、イタリア、琉球新報

 最も緊密な米国の同盟国とされるイギリスでは、1952年に成立した駐留軍法を根拠に、米軍が活動している。英国内法が米軍にも適用されることを定め、議会でも、英国防相が「米英米軍は両国の法律に従う」と答弁している。イギリスの空軍が、米軍など外国軍の飛行禁止や制限を判断しており、在英米軍は夜間早朝の訓練を禁じる在欧米空軍が自ら作成した指令書に従う。平日の午後11時から翌朝午前6時を「静音時間帯」に定め、飛行場の使用を禁じている。爆撃機やステルス航空機の配備の際には、英国防省の承認を得ることを義務付けるなど、詳細な規定を設けている。訓練を監視するため、米軍基地には英空軍の司令官が常駐している。

 以上のように、沖縄県の調査は、在日米軍には原則として国内法が適用されないとする日本政府との違いを改めて浮き彫りにした。ところが、国会で再三、県の調査報告を踏まえて、地位協定改定を求められた河野太郎外相は「何かを取り出して比較するということに全く意味はない」と発言した。

 国際的な事例比較を通じて課題を国民に分かりやすく示し、交渉によって改善に導くことは本来、外務省が率先して取り組む本来業務のはずである。

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筆者

松元剛

松元剛(まつもと・つよし) 琉球新報社執行役員・編集局長

 

1965年那覇市生まれ。駒澤大学法学部卒。89年琉球新報社入社。社会部警察・司法担当、中部支社報道部、2度の政経部基地担当、編集委員、経済部副部長などを経て、2010年4月から政治部長兼論説委員。13年4月から編集局次長兼報道本部長、16年6月から論説副委員長を兼務。17年4月に読者事業局次長、18年6月から執行役員・読者事業局特任局長。19年4月から現職。

 

共著に『徹底検証 安倍政治』(岩波書店)、『内心、「日本は戦争をしたらいい」と思っているあなたへ』(角川書店 新書oneテーマ21)、『検証 地位協定 ―日米不平等の源流』(琉球新報社編、高文研)、『〈沖縄〉基地問題を知る事典』(吉川弘文館)、『ルポ・軍事基地と闘う住民たち』(琉球新報社編、NHK出版)、『観光コースでない沖縄(第4版)』、高文研)、『沖縄 自立への道を求めて』(高文研)など。

 

雑誌『世界』(岩波書店)で、2008年4月から輪番コラム「沖縄(しま)という窓」を連載中。

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